識別力のない商標について

商標は、自己と他人の商品・役務を区別するために用いられます。よって、識別力のない商標は登録を受けることができません。

商標法は3条1項1号から6号に、識別力がなく商標登録を受けることのできない商標の類型を定めています。

商標法
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

本条各号については、次の過去記事もご覧下さい。

この条項のうち、1号から5号までは、商標の構成自体から識別力のないものを例示的に列挙したものであり、6号は1~5号に列挙された商標以外の識別力のない商標を総括的、概括的に規定したものです。

裁判例の挙げる識別力のない商標

6号に該当する識別力のない商標として、裁判例は次のようなものを挙げています(知高判平成18年3月9日・平17(行ケ)10651)

識別力のない商標
  • 構成自体が商標としての体を為していないなど、そもそも自他商品識別力を持ち得ないもの
  • 1~5号に該当しないが、一応、その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないと推定されるもの
  • その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものと推定はされないが、取引の実情を考慮すると、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないもの

審査基準

審査基準には、上記1~5号以外の識別力のない商標、すなわち、6号に該当する商標として、次のようなものが挙げられています。

指定商品若しくは指定役務の宣伝広告、又は指定商品若しくは指定役務との直接的な関連性は弱いものの企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標

出願商標が、その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等を普通に用いられる方法で表示したものとしてのみ認識させる場合です。

出願商標が、その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等としてのみならず、造語等としても認識できる場合には、本号に該当しないと判断されます。

単位等を表示する商標

商標が、「メートル」、「グラム」、「Net」、「Gross」等の、指定商品又は指定役務との関係から、商慣習上数量を表示する場合に一般的に用いられる表記の場合です。

元号を表示する商標

商標が、元号として認識されるにすぎない場合です。

国内外の地理的名称を表示する商標

商標が、事業者の設立地・事業所の所在地、指定商品の仕向け地・一時保管地若しくは指定役務の提供に際する立ち寄り地(港・空港等)等を表す国内外の地理的名称として認識される場合です。

取扱商品の産地等を表示する商標

商標が、事業者の設立地・事業所の所在地、指定商品の仕向け地・一時保管地若しくは指定役務の提供に際する立ち寄り地(港・空港等)等を表す国内外の地理的名称として認識される場合です。

取扱商品の産地等を表示する商標

小売等役務に該当する役務において、商標が、その取扱商品の産地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を表示するものと認識される場合です。

地模様からなる商標

商標が、模様的に連続反復する図形等により構成されているため、単なる地模様として認識される場合です。

店舗、事務所、事業所及び施設の形状からなる商標

立体商標について、商標が、指定商品又は指定役務を取り扱う店舗等(例えば、移動販売車両、観光車両、旅客機、客船等の建築物に該当しないものも含みます)の形状(内装の形状を含みます)にすぎないと認識される場合です。

店名として多数使用されている商標

商標が、指定役務において店名として多数使用されていることが明らかな場合です。

例としては、指定役務「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」について、商標「さくら」、「愛」、「純」、「ゆき」、「ひまわり」、「蘭」、指定役務「茶又はコーヒーを主とする飲食物の提供」について、商標「オリーブ」、「フレンド」、「ひまわり」、「たんぽぽ」が挙げられます。

色彩のみからなる商標

色彩のみからなる商標は、原則として、識別力がありません。

●●通り特許事務所は識別力がないとした裁判例
(知高判令和3年4月27日・令2(行ケ)10125)

商標の識別力について判断した裁判例をご紹介します。

原告は、「六本木通り特許事務所」の文字を標準文字で表してなる商標(本願商標)について、45類等の役務を指定役務としてを商標登録出願しましたが、拒絶査定を受けたため、これを不服として拒絶査定不服審判を請求しました。

しかし、本願商標は、単に、役務の提供場所あるいは役務を提供する者の所在を表すものであり、識別力がないとして、商標法3条1項6号に該当するとして、審判不成立の審決を受けました。

原告はこれを不服として、審決取消し訴訟を提起しましたが、審判と同様、「六本木通り特許事務所」との文字は、六本木通りに近接する場所において本願商標の指定役務を提供している者を一般的に説明しているにすぎず識別力がないとして、審決が維持されました。

本願商標に係る「六本木通り特許事務所」との文字は、本願商標の指定役務との関係で、役務の提供場所と理解される「六本木通り」との文字と、役務を提供する者の一般的な名称と理解される「特許事務所」の文字とを結合させたものであるから、本願商標の指定役務の需要者は、これを「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続の代理等を行う者」を意味するものと認識するというべきである。

 以上からすると、「六本木通り特許事務所」との文字は、六本木通りに近接する場所において本願商標の指定役務を提供している者を一般的に説明しているにすぎず、本願商標の指定役務の需要者において、他人の同種役務と識別するための標識であるとは認識し得ないものというべきであって、その構成自体からして、本願商標の指定役務に使用されるときには、自他役務の出所識別機能を有しないものと認められる。知高判令和3年4月27日・令和2(行ケ)10125

使用による識別力

3号~5項に該当するような識別力のない商標であっても、使用によって識別力を獲得した場合には商標登録を受けることができます(3条2項)。また、識別力のない商標で1号~5項に該当しないものであっても、使用により識別力を獲得した商標はそもそも6号には該当しないことになりますので、これも商標登録を受けることができます。

笠原 基広