個人輸入の問題点
インターネットの発達によって、個人であっても、海外通販サイトやオークションサイトを通じて商品を購入し、個人輸入することが容易となりました。
いうまでもなく、商標法はわが国において無権原者が登録商標を使用することを規制する法律ですので、海外における行為には適用されません。よって、偽ブランド品等の、わが国で販売すれば商標権を侵害する商品(以下、「侵害品」といいます。)を販売する行為であっても、海外で行われていれば、わが国の商標法では規制できません。
また、商標とは、「業として」商品等を生産等する者が、その商品について使用するものをいいます。輸入行為は「使用」に含まれますが、「業として」行われない限り、商標権を侵害しません。よって、事業者でない者(以下、「個人」といいます。)が侵害品を輸入する行為は、それが「業として」行われたものではない場合、例えば個人使用目的で行われるような場合には、商標権を侵害しない場合がありました。
すなわち侵害品であっても、個人輸入の場合には輸入取締りの実効性が担保できませんした。
そこで、令和3年度商標法改正によって、海外の業者が日本に侵害品を持ち込ませる行為が、商標法における使用行為(輸入)に含まれることになり、個人輸入に係る侵害品の輸入差止めが可能となりました。
商標とその使用概念
商標法上における商標は、次のように定義されています。
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
よって、「標章」のうち「業として」使用されるものが商標とされています。
この商標の使用行為には「輸入」が含まれます。
第二条
(略)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。 (略)
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
よって、業として商品を譲渡等する者が、商品又は商品の包装に標章を付したものを輸出・輸入する行為は、商標の「使用」となります。
しかし、わが国への輸出行為は海外で行われるため商標権を侵害しません。また、輸入行為は、行為者が個人である場合には「業として」の使用にあたらないことがありました。
商標法の改正
そこで、改正商標法が令和3年5月21日に交付されました。施行の日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。
改正法では、次の条文が追加されました。
7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。
これによって、海外の事業者が侵害品をわが国に他人をして輸入させる行為も、商標権を侵害することになりました。
個人輸入への影響
上記の商標権侵害の主体は海外事業者ですので、業として輸入等をしていない個人輸入者が商標権を侵害することにはなりません。
しかし、海外事業者が侵害品を他人(個人輸入者)をして持ち込ませることができなくなりますので、結局のところ侵害品は税関における輸入差止めの対象となります。
よって、海外通販やオークション等で個人輸入をするつもりで侵害品を購入しても、税関で輸入が差止められることになってしまいます。
また、個人であっても、侵害品を業として輸入、販売等すると商標権を侵害します。故意の商標権侵害には刑事罰もありますので、ご注意ください。
なお、意匠法についても同様の改正がされています。詳しくは次の記事をご覧下さい。
- 【DLレポート】特許権侵害警告書雛形 - 2024年7月17日
- 【DLレポート】特許権譲渡契約書雛形 - 2024年7月17日
- 【DLレポート】MTA契約書雛形 - 2024年7月17日