商標の類似とは

他人の先願商標と類似している商標は、商標登録を受けることができません(商標法2条1項11号)。

商標法
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

(略)

十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

(略)

一般的に商標の類否は、次の3つの要素を勘案し、出所混同のおそれがあるか否かによって判断されます。

商標の類否判断要素
  • 外観
  • 観念
  • 称呼

外観とは商標の見た目、観念とは商標から生じる意味内容、称呼(しょうこ)とは商標を読んだ場合の音のことをいいます。これらは商標の類否の重要な判断要素ではありますが、最終的には諸事情を考慮し全体的に考察した上で、具体的な取引状況に基づいて判断します。

商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観観念称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。

最小判昭和43年2月27日・昭和39(行ツ)110

結合商標の類否判断

複数の構成部分を組み合わせて構成される結合商標の場合、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを比較して判断することは、原則的には許されません。しかし、可分な結合商標の一部が出所識別標識として支配的な印象を与えたり、一部分以外に識別力の無い場合には、一部分を取り出して比較することも可能です。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)。

最小判平成20年9月8日・平成19(行ヒ)223(つつみのおひなっこや事件)

一方で、各構成部分が不可分に結合しているとまではいえない結合商標は、構成部分全体の名称によつて称呼、観念されず、一部だけによって簡略に称呼、観念されることがあります。よって、そのような結合商標には二個以上の称呼、観念が生じることになり、その一個が他の商標と類似する場合には、類似性が認められます。

簡易、迅速をたつとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によつて称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによつて簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

最小判 昭和38年12月5日・ 昭和37(オ)953

裁判例 知高判令和3年3月11日・令和2(行ケ)10118

事案の概要

近年の裁判例より、商標の類否判断がどのように行われているかを概観します。

原告は次の本件商標の商標権者です。

本件商標

登録番号 第6080658号
指定役務 第35類、第44類

被告は本件商標について商標登録無効審判をしたところ、本件商標は次の引用商標1~3と類似しているとして、一部の役務区分を除き無効とされました。

原告はこれを不服とし、無効審決の取消しを求めて、審決取消し訴訟を提起しました。

引用商標1及び2(商標は同一)


登録番号第4971920号
指定役務 第44類

登録番号第5453305号
指定役務第44類

引用商標3
登録番号第5866746号
指定役務第35類

裁判所の判断

裁判所はまず、上記最小判昭和43年2月27日・昭和39(行ツ)110と、最小判平成20年9月8日・平成19(行ヒ)223(つつみのおひなっこや事件)等を引用した上で、本件商標の一部を取り出して、その部分を他人の商標と比較して類否判断できるとしました。さらに、SMS部分には特定の観念は生じないとしました。

本件商標においては、本件図形部分と本件文字部分とを明確に区別することができ、それらの各部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているとは認められないから、本件商標から、本件文字部分を抽出し、同部分を他人の商標と比較して商標の類否を判断することができるというべきである。

そして、本件文字部分からは、「エスエムエス」との称呼が生じるが、「SMS」の語は、「広辞苑 第六版」には掲載されておらず(甲19)、他に一般的な辞書に掲載されている例があるとも認められないから、造語であると認められ、特定の観念は生じないというべきである。

知高判令和3年3月11日・令和2(行ケ)10118

そして、引用例1、2及び3についても同様に判断し、これらは可分な商標であり、SMSの部分からは特定の観念は生じないとしました。

さらに、本件商標と引用例1、2及び3の「SMS」の部分を抽出して比較し、称呼は同一であり、両者共に特定の観念は生じないとしました。

また、外観についても、自体は異なるものの特段の特徴があるとはいえず、色彩の差も微差であるとして、外観も類似としました。

以上より、本件商標は引用商標に類似しているとされました。

前記2~4のとおり、本件商標及び引用商標の類否判断においては、それぞれ、「SMS」の文字部分を抽出し、これらを対比することになり、称呼は同一となる。

また、本件商標の「SMS」と引用商標の各「SMS」からは、特定の観念を生じない

そして、各「SMS」の文字の外観については、本件商標と引用商標とでは、書体が異なるが、特段書体に特徴があるとはいえないから、この差異によって、両文字の外観に異なる印象が生じるとはいえない。また、本件商標の色彩は黒色であるのに対し、引用商標3の色彩は青色を基調にして白色が混入している点で差異があるが、このような差異は些細な差異であるから、この差異によって、両文字の外観に異なる印象が生じるとはいえない。したがって、本件商標の「SMS」と引用商標の各「SMS」とでは、外観も類似しているといえる。

以上のことからすると、本件商標は、引用商標に類似しているというべきである。

知高判令和3年3月11日・令和2(行ケ)10118

なお、原告は「SMS」は「Short Message Service(ショートメッセージサービス)」の略語であるから、審決時点(令和2年)で一般に周知されていると主張しましたが、裁判所は「SMS」が一般的な辞書(広辞苑)に記載されていないこと等をもってこれを否定しました。

若干のコメント

「SMS」はすでに一般的な語として使われているように思いますので、広辞苑に載っていないから周知でないというような裁判所の認定には、強烈な違和感を覚えました。googleでSMSを検索しても、12億件を超える検索結果が出てきます。

また、知財高裁は「SMS」部分が特に識別力のある支配的印象を有する部分であるといった認定もしていません。

個人的には、あまりすっきりと納得できない裁判例ですね。

笠原 基広