メタタグへの他人の商標や商品等表示の記載
ウェブページのソースコードでは、画面に表示されない付帯情報を「メタタグ」に記入することができます。
このメタタグに、SEO(Search Engine Optimization)を目的として、商標を記載することがあります。自身の保有する商標ならともかく、他人の商標をメタタグに記載することに、商標法や不正競争防止法上の問題はないでしょうか?
本記事ではメタタグへの他人の商標の記載について取り上げました。
メタタグの仕組み
メタタグとは、ウェブページの表示の元となるHTMLのソースコード中に記載されていながら、画面には表示されないメタ情報(付帯情報)を格納するタグです。ウェブブラウザにそのページの性質(文字コード、言語)を伝えたり(meta charset)、検索エンジンのロボット(クローラー)に対する指示を記載したり(meta name=”robots”)、検索エンジンに記事の内容を認識させる目的(SEO目的)で使用されます。
現在パソコンから本ページをご覧の方は「Ctrl」キーと「U」のキーを同時に押してみてください。文字が沢山表示されたと思います。これがHTMLファイルのソースコードです。Google Chrome、Safari、Edgeなどのウェブブラウザはこのソースコードを解釈(レンダリング)してウェブページを表示します。
それでは、ソースコードを表示したまま「Ctrl」キーと「F」キーを同時に押してみて下さい。検索窓が表れると思います。その検索窓に「meta name」と入力して、検索してみましょう。何種類かのメタタグがハイライトされると思います。検索窓に「meta name=”description”」と入力すると、本ページの場合には次のように表示されている部分がハイライトされると思います。
これがいわゆるメタタグです。
ちなみに本記事の上部に表示される画像は本記事のソースコードのメタタグのあたりをキャプチャしたものです。
メタタグに格納された内容はページ上には表示されませんが、検索エンジンのクローラーには問題なく認識され、データとして収集されます。検索エンジンはこのメタタグに格納された文字について、記事の概要やキーワードであるというようことを認識して、データベースに蓄積します。
このようなメタタグにはいろいろな種類があり、格納するメタ情報の種類を指定することができます。ウェブページの内容に関するメタタグとしては、ディスクリプションメタタグとキーワードメタタグを挙げることができます。ディスクリプションメタタグは記事の概要を、キーワードメタタグは記事のキーワードを格納します。前者は検索結果にウェブページの概要として表示されますが、後者はページ内容をコンピュータが理解するためのもので、検索結果には表示されないという違いがあります。
このメタタグに競合他社の人気商品名を記入して、自社サイトに顧客を呼び寄せることができるのではないでしょうか。そのような行為に法的問題はないでしょうか。
競合他社の商品名に関する問題ですので、商標権侵害、不正競争(周知商品等表示混同惹起行為)が問題となり得ます。
メタタグへの記載が商標権侵害になるか
メタタグに他社が商標権を有する登録商標を記載した場合に、商標権侵害となるでしょうか。
他人の登録商標であっても、これを単に記載したのみで商標権侵害になるとは限りません。商標権を侵害するのは、標章を商標として使用をしている場合(商標的使用をしている場合)に限られます。例えばtwitterに「コカコーラ美味しかった」と「コカコーラ」なる商標を記載しても、商標的使用とはいえないため商標権を侵害しません。
よって、メタタグへの他人の登録商標の記載が商標権侵害となるには、そのような行為が「商標的使用」に該当するか否かが問題となります。
商標的使用については、次の記事もご覧下さい。
商標の使用とは
商標法は、商品に関する商標の使用を次のとおりとしています。
商品に関する商標の使用行為
- 商品又は商品の包装に標章を付する行為(第2条3項1号)
- 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(第2条3項2号)
- 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(第2条3項8号)
メタタグへの登録商標の記載が商標的使用に該当するとしたら、2条3項8号あたりかと思われますが、人が視認できないような記載をする行為が商標的使用に該当するのでしょうか?
ディスクリプションメタタグへの記載は商標権侵害となる
まずディスクリプションメタタグへに他人の登録商標を記載すると、商標権侵害に当たる可能性があります。
メタタグの記載を商標権侵害とした初期の裁判例(大地判平成17年12月8日・平16(ワ)12032号「中古車の110番、中古車の119番事件」)では、次のように判示されています。
一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、同様に、その役務に関する広告であるというべきであり、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたるというべきである。大地判平成17年12月8日・中古車の110番、中古車の119番事件
すなわち、この裁判例では、ディスクリプションメタタグへ他人の登録商標を記載するとGoogleなどの検索結果に表示されるのだから「役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為」に該当するとしています。
このディスクリプションメタタグへの他人の登録商標の記載が商標権侵害に当たる旨の判断は、近年の裁判例でも概ね踏襲されています。例えば東地判令和元年5月23日・平28(ワ)23327号・平28(ワ)38566号でも概ね同様の判示がされ、これは控訴審(知高判令和2年3月19日・令元(ネ)10049号)でも維持されています。
インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブページの説明は、ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができる。したがって、その説明が表示されるようにHTMLファイルにメタタグを記載することは役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為に当たる東地判令和元年5月23日・平28(ワ)23327号・平28(ワ)38566号
キーワードメタタグへの記載は商標的使用ではない?
裁判所の判示は、ディスクリプションメタタグは視認できないけど、記載することによって検索結果には表示されるのだから、広告である、という論理構成になっています。それでは、検索結果にも表示されないキーワードメタタグについてはどうでしょうか。
これに関する判断をした裁判例として、大地判平成29年1月19日・平27(ワ)547号があります。この裁判例では、ディスクリプションメタタグへの記載について上記の2つの裁判例とほぼ同様の理由で肯定していますが、キーワードメタタグへの記載について商標権侵害を否定しています。
被告のウェブサイトのhtmlファイル上の前記前提事実(4)ウ記載のコードのうち、「<meta name=″keywords″content=″バイクリフター″>」との記載は、いわゆるキーワードメタタグであり、ユーザーが、ヤフー等の検索サイトにおいて、検索ワードとして「バイクリフター」を入力して検索を実行した際に、被告のウェブサイトを検索結果としてヒットさせて、上記(1)のディスクリプションメタタグ及びキーワードタグの内容を検索結果画面に表示させる機能を有するものであると認められる。このようにキーワードメタタグは、被告のウェブサイトを検索結果としてヒットさせる機能を有するにすぎず、ブラウザの表示からソース機能をクリックするなど、需要者が意識的に所定の操作をして初めて視認されるものであり、これら操作がない場合には、検索結果の表示画面の被告のウェブサイトの欄にそのキーワードが表示されることはない。(弁論の全趣旨)
ところで、商標法は、商標の出所識別機能に基づき、その保護により商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることを目的の一つとしている(商標法1条)ところ、商標による出所識別は、需要者が当該商標を知覚によって認識することを通じて行われるものである。したがって、その保護・禁止の対象とする商標法2条3項所定の「使用」も、このような知覚による認識が行われる態様での使用行為を規定したものと解するのが相当であり、同項8号所定の「商品…に関する広告…を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」というのも、同号の「広告…に標章を付して展示し、若しくは頒布し」と同様に、広告の内容自体においてその標章が知覚により認識し得ることを要すると解するのが相当である。
そうすると、本件でのキーワードメタタグにおける原告商標の使用は、表示される検索結果たる被告のウェブサイトの広告の内容自体において、原告商標が知覚により認識される態様で使用されているものではないから、商標法2条3項8号所定の使用行為に当たらないというべきである。大地判平成29年1月19日・平27(ワ)547号
不正競争(周知商品等表示混同惹起行為)となるか
周知商品等表示をメタタグに記載した場合にも、同様のことがいえます。
裁判例においても、周知商品等表示をメタタグに記載する行為が、不正競争行為とされています。
以下の裁判例(知高判令和元年10月10日・平30(ネ)10064号 ・ 平31(ネ)10025号)では、被告標章1及び2は周知商品等表示とされ、これをメタタグに記載することは、不競法上の商品等表示としての使用に当たるとされています。
上記のような態様で被告標章1及び2を使用した場合、需要者は、独立して表示された被告標章1及び2及びその後に空白を挟んで表示されている語句(「取付互換性のある交換用カートリッジ」、「浄水器カートリッジ」、「浄水カートリッジ」)や被告標章1及び2の近くにある被告商品の写真から、被告標章1及び2が被告商品の出所を示していると認識するといえる。
そして、このような表示は、タイトルタグやメタタグの記載によって実現されているものであるから、タイトルタグやメタタグに被告標章1及び2を記載することは、被告標章1及び2を、商品を表示する商品等表示として使用(不競法2条1項1号)するものと認められる。 知高判令和元年10月10日・平30(ネ)10064号等
メタタグ以外の人が視認できない態様
このように、上記裁判例では、人が覚知できないキーワードメタタグへの記載について商標権侵害とはされていません。この点について、最近のGoogleのクローラーはキーワードメタタグを参照していないらしく、あまり実害はないのかもしれません。
なお、メタタグ以外にもソースコードの記載を人が覚知できないようにする方法はあります。例えば、hidden属性を使ったタグ(<div hidden>)であったり、type属性としてhiddenを使うような場合(<input type=”hidden”>)、cssで非表示を指定する場合(visibility:hiddenやdisplay: none)もそうですし、コメントアウトするというような方法もあります。
これらの場合はウェブページに表示こそされませんが、ソースコードには残っています。コメントアウトについてはデータとして認識されないようですが、その他の方法であればクローラーも問題なくデータとして収集すると思われます。
このようなメタタグ以外の人が視認できない記載についても、キーワードタグのように専ら内部処理に利用され検索結果としては表示されないデータならともかく、クローラーがデータ収集の対象としているのであれば検索結果(スニペット)にも表示されると思われますので、商標権侵害や不正競争行為に当たる可能性が高いでしょう。
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