社長
社長
以前お願いしていた当社の商標が登録されましたね。
弁護士
弁護士
私も安心しました。御社といえばこれ、といえるような商標でしたものね
社長
社長
この登録した商標なんですが、登録前と同じように使っているだけで大丈夫なんですか?ⓇとかTMとか、ああいったものはつけなくても大丈夫なんでしょうか?
弁護士
弁護士
ええ、つけなくても法律上は大丈夫です。しかし、普通名詞化の防止といった、一定のメリットはありますよ。

Rマークの由来

身近な商品をよく見てみると、商品名のロゴ等の横に小さく、丸で囲まれたRがつけられていることがあります。これは、登録商標マーク(The registered trademark symbol)とよばれるもので、登録された商標である、ということを表すものです。

登録商標マーク。Rマーク、マルRなどとよばれることもあります。

この日本でもよくみかけるマークは、実はアメリカの連邦商標法(Lanham Act)に由来するものです。つまり、日本の法律では、これをつけなければ登録商標としての効力を生じない、というようなものではないということです。

では、それにもかかわらず、なぜRマークがつけられていることがあるのでしょうか。

Rマークをつける意味

商標にRマークをつけると、これを見た者に対してその商標が登録されているということをアピールできます。商標が登録されていることが伝われば、これを見た多くの人はその商標を使わないようにするでしょうから、商標権侵害の防止につながります。

また、登録商標の「普通名称化」の防止にも効果があります。

「普通名称化」とは、需要者等(消費者等)の間で、商標が一般名称として認識されるに至ることをいいます。商標が「普通名称化」してしまうと、まだ商標登録していない商標については商標登録ができなくなったり、既に登録された商標についても第三者の商標の無断使用を止められなくなる等、望ましくない事態が生じることになります。

コラム:商標の普通名称化

商標は、それがつけられた商品やサービスを、他の商品やサービスと異なるものであると需要者に認識させる機能(自他商品役務識別機能、出所表示機能)をもっています。しかし、本来であれば特定の商品・サービスを示す標識として用いられるべき商標が、あたかも一般名詞のように用いられてしまうことが続けば、そのような機能が失われていきます

このような現象は、商標の「普通名称化」といわれています。

例えば「エスカレータ」は、当初は特定の会社の階段式昇降機を表す商標でしたが、現在は階段式式昇降機を表す一般名称として認識されています。

このように普通名称化してしまった商標には、例えば次のようなものがあります。

  • うどんすき
  • 正露丸
  • 巨峰
  • サニーレタス
  • ポケベル

 

登録商標であっても、普通名称化したと判断されると、商標権の効力が制限されてしまい、第三者による使用が認められてしまいます(商標法第26条第1項)。

登録商標が有名になりすぎたおかげで、かえって商標権としての効力を失ってしまうのであれば、費用をかけてブランド化した意味がありません。商標権者は、登録商標が普通名詞的に使用されないよう、最新の注意を払う必要があります。例えば、マスメディアで自社の登録商標が普通名称的な使われ方をした場合、そのような使い方をしないよう申し入れるような、普通名称化防止対策をとるべきでしょう。

Rマークを登録商標につけるのも、普通名称化の防止には有効です。

Rマークをつける際の注意点

上記のとおり、商標法上は、商標にRマークをつけることは必須ではありませんが、登録商標を表示するときには、それが登録商標である旨表示する努力義務があります(商標法73条)。

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商標法
商標法73条(商標登録表示)
商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、経済産業省令で定めるところにより、指定商品若しくは指定商品の包装若しくは指定役務の提供の用に供する物に登録商標を付するとき、又は指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該指定役務の提供に係る物に登録商標を付するときは、その商標にその商標が登録商標である旨の表示(以下「商標登録表示」という。)を付するように努めなければならない。(e-Gov法令検索

しかし、Rマークのつけ方によっては、商標法上問題が生ずる可能性があります。

例えば商標法では、登録商標以外の商標に(ⅰ)商標登録表示や(ⅱ)これと紛らわしい表示を付することが禁じられています(商標法74条1号)。

(ⅰ)の「商標登録表示」とは、「登録商標 〇〇〇〇〇〇号」(〇は数字が入ります。)という表示をいいます(商標法73条、商標法施行規則17条)。

Rマークは登録された商標であることを表すものですので、(ⅱ)の「紛らわしい表示」にあたる可能性があります。

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商標法
商標法第74条(虚偽表示の禁止)

何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 登録商標以外の商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
二 指定商品又は指定役務以外の商品又は役務について登録商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
三 商品若しくはその商品の包装に登録商標以外の商標を付したもの、指定商品以外の商品若しくはその商品の包装に商品に係る登録商標を付したもの又は商品若しくはその商品の包装に役務に係る登録商標を付したものであつて、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付したものを譲渡又は引渡しのために所持する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標以外の商標を付したもの、指定役務以外の役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に役務に係る登録商標を付したもの又は役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に商品に係る登録商標を付したものであつて、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付したもの(次号において「役務に係る虚偽商標登録表示物」という。)を、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
五 役務に係る虚偽商標登録表示物を、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為(e-Gov法令検索

したがって、登録商標以外の商標、例えば、まだ登録されていない商標(出願段階のもの等も含まれます。)にRマークをつけると、商標法違反となる可能性があります。

なお、商標登録されていない商標について、商標であることだけでもアピールしておきたいという場合には、商標であることを示すTMマーク(The trademark symbol)をつけるという選択肢もあり得ます。

また、商標法は、指定商品又は指定役務以外の商品又は役務(サービスとも言い換えられます。)について登録商標を使用する場合に、(a)商標登録表示や(b)これと紛らわしい表示を付することも禁じています(商標法74条2号)。

そもそも商標登録は、特定の商品又は役務を指定した上でなされるもので、この指定した商品(指定商品)及び役務(指定役務)についてのみの独占的な使用を可能にするものです。例えば、ボールペンを指定商品としてロゴの商標を登録した場合、これとまったく無関係の商品(例えば靴等)に同じロゴを使用する独占的な権利はありません。そのため、このような独占的な使用ができない範囲の指定商品又は役務について、あたかも権利が及んでいるかのような表示を付することは許されず、商標法違反となる可能性があります。

このほか、上記行為の結果生ずるものを譲渡したり、所持したりすること、上記行為に関連する行為も禁じられています(商標法74条3号から5号まで)。
そして、商標法上、これらの行為をした者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられることが定められています(商標法80条)。

条文を見る
商標法
商標法第80条(虚偽表示の罪)

第七十四条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。(e-Gov法令検索

社長
社長
商標が有名になったばっかりに、効力を失ったらたまらないですね。
弁護士
弁護士
そうですね。今回はRマークについてお話ししましたが、このほか、単に「登録商標」とだけ記載したり、「〇〇は〇〇社の登録商標です。」と記載したりすることでも同じような効果がありますよ。
社長
社長
なるほど!当社も登録商標表示をする方向で進めていきますね。
笠原 基広