極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
商標法は、一般的に商標登録を受けることができない類型を列挙し、これに該当しないものを原則として商標登録すると定めています。
この商標登録ができない商標の類型の一つに、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」(商標法3条1項5号)があります。
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
「ありふれた」標章とは
「ありふれた」標章とは、一般的に使用されている標章をいいます。
この「ありふれた」標章は、商品又は役務との関係で判断されるものではありません。この点は、普通名称のみからなる商標について定めた第3条第1項第1号や、慣用されている商標(「慣用商標」ともよばれます。)について定めた同2号とは異なります。
例えば、商品又は役務との関係で判断される1号では、商品「砂糖」について商標「シュガー」の登録を受けようとした場合には登録を受けられず、一方、商品「被服」について商標「シュガー」の登録を受けようとした場合には、登録を受けられる、ということが生じ得ます。
しかし、本号の「ありふれた」商標の判断には、商品、役務との関係は考慮されません。
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」が登録されない理由
このような商標は、通常、「自他商品・役務識別機能」がない等として原則、商標登録が許されません。「自他商品・役務識別機能」とは、ある商品や役務を他の商品から識別する機能で、商標の機能の一つです。「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」を商標としても、何ら、その商品や役務の目印としての機能を発揮しないと考えられているということです。
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」の具体例
例えば、数字は原則として「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当します。このほか、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」としては以下のようなものが挙げられます(商標審査基準 改定第13版第39から40頁まで参照)。
ローマ字
・ローマ字の1字又は2字からなるもの
・ローマ字の1字又は2字に「Co.」、「Ltd.」又は「K.K.」を付したもの(ただし、それぞれ「Company」、「Limited」又は「株式会社」を意味するものと認められる場合のみ)、等
仮名文字
・仮名文字(変体仮名(現在学校教育で用いられない仮名)を含む。)1字からなるもの
・仮名文字のうち、ローマ字の1字の音を表示したものと認識されるもの
・仮名文字のうち、1桁又は2桁の数字から生ずる音を表示したものと認識されるもの、等
(例)「トウエルブ」、「じゅうに」等
ローマ字又は数字から生ずる音を併記したもの
・ローマ字の1字に、その音を仮名文字で併記したもの、等
ローマ字と数字を組み合わせたもの
・ローマ字の1字又は2字の次又は後に数字を組み合わせたもの、等
(例)「A2」、「AB2」、及び「2A」等
図形
・1本の直線、波線、輪郭として一般に用いられるもの、等
(例)「△」、「◇」、「♡」、等
立体的形状
一般的に用いられるもの、等
(例)球、立方体、三角柱、等
簡単な輪郭内に記したもの
簡単な輪郭内に、数字又は上記①から④までのものを記したもの(ただし例外あり)、等
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」に該当しないもの
一見、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」にあたりそうに思えるものでも、これにはあたらないものもあります。
例えば、ローマ字2字を使ったものであっても、これらが「&」で連結されているものについては「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」にあたりません(商標審査基準 改定第13版第41頁参照)。
極めて簡単で、かつ、ありふれた標章「のみ」からなる商標
上記のようなありふれた氏又は名称が用いられていたとしても、これ「のみ」からなる場合でないときは、本類型には該当しません。
つまり、商標の一部に「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」が用いられていたとしても、それのみでなければ、本類型に該当しないということです。
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」が商標登録される場合
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」であっても、例外的に商標登録がされる場合があります。その商標の使用の結果、商標を見た需要者(消費者等が含まれます。)が、誰の商品又は役務か認識できるようになっている場合です。
そもそも本類型が原則として商標登録されない理由の一つに「自他商品・役務識別機能」を欠くこと、というものがありましたから、この機能があるといえるものに商標登録が認められるのは当然ともいえます。
極めて簡単で、かつ、ありふれた標章の使用
「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」は、3号の記述的商標や4号のありふれた氏又は名称からなる商標と並んで、使用によって識別力を獲得できるタイプの商標です。
識別力を獲得したことを示すのは容易ではありませんが、長年使い続けてきた商標であれば、登録を受けるメリットも大きくなります。一見本号に該当しそうな商標であっても、識別力については検討すべきです。
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