ドメイン名のしくみ
ドメイン名とは、メールアドレスやURLで使用される文字列です。例えば本サイトのドメイン名は「chizai-faq.com」です。
インターネットにアクセスできるコンピュータには、数字とピリオドで構成されるIPアドレスが付与されています。しかし、そのような無味乾燥な数字を覚えるのは困難なため、IPアドレスとドメイン名を対応させるデータベースがあり、ドメイン名を含むウェブアドレスをインターネットブラウザに入力するだけでウェブページを閲覧できたり、ドメイン名を含むメールアドレスが届くような仕組みとなっています。
そのようなドメイン名の管理は、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)をはじめとする国、組織の機関で行われています。例えば、「.jp」ドメインは株式会社日本レジストリサービス(JPRS)が管理しています。
不正競争防止法上の規制
不正競争行為としてのドメイン名使用等
近年は、会社名やサービス名のみならず、現在では商品の名前でドメイン名を取得しサイトを開設することも珍しくありません。よって、ドメイン名にも財産的価値が生じるようになっています。
ドメイン名は基本的には無審査、かつ、早い者勝ちで取得できてしまいますので、自社の名称や商品名と類似したドメイン名を取得されると問題になります。
ドメイン名が登録商標と類似している場合には、商標権の侵害になる場合があります。それでは、商標登録していない商品名などと類似する、紛らわしいドメイン名の取得は、不正競争防止法で規制されているでしょうか。
まず、不正競争法でドメイン名は「インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう」と定義されています。
「ドメイン名」とは、インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう。
(不正競争防止法第2項第10項)
不正競争防止法は、不正の利益を得る目的、又は、他人に損害を与える目的(図利加害目的)で、他人の特定商品等表示と同一又は類似する文字列のドメイン名を取得、保有、又は、使用する行為(以下、「取得等」といいます。)を規制しています。
- 不正の利益を得る目的、又は、図利加害目的で
- 他人の特定商品等表示と同一又は類似するドメインを
- 取得、保有、又は、使用する行為
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<略>
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特定商品等表示
特定商品等表示とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいいます。
周知性、著名性までを必要とせず、自他識別機能又は出所表示機能を有することで足りるとされています。また、商標権の有無も問題となりません。
裁判例における不正の利益を得る目的と図利加害目的
ドメイン名「mp3.co.jp」の使用差止権の有無が問題となった裁判例では、「不正の利益を得る目的で」とは「公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的がある場合」とされました。単に、ドメイン名の取得、使用等の過程で些細な違反があった場合等を含みません。
また、「他人に損害を加える目的」(図利加害目的)とは「他人に対して財産上の損害、信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合」とされました。
例として、〈1〉自己の保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売する目的、〈2〉他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的、又は、〈3〉当該ドメイン名のウェブサイトに中傷記事や猥褻な情報等を掲載して当該ドメイン名と関連性を推測される企業に損害を加える目的、を有する場合が挙げられています。
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裁判所は不正の利益を得る目的、図利加害目的について次のとおり認定し、原告にはそのどちらも認められないため、差止請求権存在を認めることはできないとしました。
「不正競争防止法が「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示・・・と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得・・・する行為」を不正競争行為とし、図利又は加害目的という主観的な要件を設けた上で、その行為を禁止したのは、〈1〉誰でも原則として先着順で自由に登録ができるというドメイン名登録制度の簡易迅速性及び便利性という本来の長所を生かす要請、〈2〉企業が自由にドメイン名を取得して、広範な活動をすることを保証すべき要請、〈3〉ドメイン名の取得又は利用態様が濫用にわたる特殊な事情が存在した場合には、その取得又は使用等を禁止すべき要請等を総合考慮して、ドメイン名の正当な使用等の範囲を画すべきであるとの趣旨からであるということができる。」
「そうすると、同号にいう「不正の利益を得る目的で」とは「公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的がある場合」と解すべきであり、単に、ドメイン名の取得、使用等の過程で些細な違反があった場合等を含まないものというべきである。また、「他人に損害を加える目的」とは「他人に対して財産上の損害、信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合」と解すべきである。例えば、〈1〉自己の保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売する目的、〈2〉他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的、又は、〈3〉当該ドメイン名のウェブサイトに中傷記事や猥褻な情報等を掲載して当該ドメイン名と関連性を推測される企業に損害を加える目的、を有する場合などが想定される。」
商品等表示としてのドメイン名
不正競争防止法は、周知又は著名な他人の商品等表示と同一又は類似する表示を、商品等表示として使用することを規制しています。
よって、ドメイン名が他人の周知・著名な商品等表示と類似する場合には、ドメイン名の使用が不正競争行為となる可能性があります。
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例えば、ドメイン名「j-phone.co.jp」の使用が問題となった事件では「J-PHONE」等の商品等表示が著名であるとされ、当該ドメイン名の使用が不正競争行為に該当するとして、使用差止め、損害賠償請求が認められました。
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裁判所は、ドメイン名の使用が商品等表示の使用に該当し、J-PHONE表示の著名性を認めた上で、使用差し止め、損害賠償等を認めました。
「ドメイン名の登録者がその開設するウェブサイト上で商品の販売や役務の提供について需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し、あるいは注文を受け付けているような場合には、ドメイン名が当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能をも有する場合があり得ることになり、そのような場合においては、ドメイン名が、不正競争防止法二条一項一号、二号にいう「商品等表示」に該当することになる。」
「そして、個別の具体的事案においてドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に該当するかどうかは、当該ドメイン名が使用されている状況やウェブサイトに表示されたページの内容等から、総合的に判断するのが相当である。本件ドメイン名は、本件ウェブサイト中の「J―PHONE」の表示とあいまって、本件ウェブサイト中に表示された商品の出所を識別する機能を有していると認めるのが相当である。したがって、被告の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法二条一項一号、二号にいう「商品等表示」の使用に該当するものというべきである。」
ドメイン名の不正使用等に対し何が請求できるか
ドメイン名の取得、保有、使用が不正競争行為となる場合には、これに対し差止め、損害賠償、信用回復措置の請求が可能です。
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