大学の名称の保護
受験生の皆さんがどこの大学を受験するかは、教授陣、施設、立地、ネームバリュー、偏差値などを総合的に判断して決めるのではないでしょうか。
でも、折角有名大学に合格したのに、似通った名前の別の大学だと思われていたら、ちょっと切ないですね。
それでは、大学の名称は不正競争防止法で保護されているといえるでしょうか。
不正競争防止法は次のとおり著名・周知な商品等表示を保護しており、大学の名称もこの「商品等表示」に該当します。
不正競争防止法第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
それでは、どのような場合に大学の名称が保護されるでしょうか。
周知表示混同惹起行為
保護の要件
まず、不正競争防止法は、他人の商品表示・営業表示(商品等表示)として需要者の間で広く認識されている(すなわち周知な)ものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為を不正競争行為として規定しています(2条1項1号)。本規定で不正競争とされるには、次の要件が必要です。
- 商品等表示性
- 周知性
- 類似性
- 混同のおそれ
商品等表示性
その名称が、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものであることを要します。
自他識別力又は出所表示機能を有するものであることを要し、表示が、単に用途や内容を表示するにすぎない場合を含みません。
大学の名称は、法人の業務に係る営業主体表示であるといえます。
周知性
その名称が需要者の間で広く認識されていることを要します。
「広く認識されている」か否かは、商品等表示対象の種類、取引実態、取引慣行、宣伝活動、商品等表示の内容などの諸般の事情に基づき総合的に判断されることになります。
一般的に周知性が肯定されるには、全国的に知られている、といえるほど広く認識されていることまでは要しません。一地方で広く認識されていれば、当該地方では保護されるといわれています。
類似性
相手方の商品等表示が自己の商品等表示と類似している必要があります。
裁判例では「取引の実情のもとにおいて、取引者又は需要者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断する」としたものがあります(最判S58年10月7日・日本ウーマンパワー事件)
混同のおそれ
営業主体が同一と誤信させる混同(狭義の混同)のみならず、営業主体の間に何らかの関係があるのではないかと誤信させる混同(広義の混同)のおそれがあればよいといわれています。
著名表示冒用行為
一方、不正競争防止法は、他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用等する行為も不正競争行為として規定しています(2条1項2号)。
本規定で不正競争とされるには次の要件が必要です。
- 商品表示性・営業表示性
- 著名性
- 類似性
すなわち、上記の周知表示の場合とは異なり、著名な営業表示であれば混同のおそれがなくとも、同一・類似の営業表示を使用等すると不正競争行為となります。
著名な商品等表示とは、著名表示の保護が広義の混同さえ認められない全く無関係な分野にまで及ぶものであることから、通常の経済活動において、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度にその表示が知られていることが必要であり、具体的には全国的に知られているようなものを想定しているといわれています。
経済産業省が、次のウェブページで、不正競争防止法の概要をわかりやすく説明していますので、興味のある方は参考になさってください。
2つの裁判例
ではどのような場合に、大学の名称が著名・周知となり、使用差止めが認められるのでしょうか。
大学の名称に関する裁判例を2つ紹介します。
京都芸術大学事件(大地判R2年8月27日)
本件は、京都市立芸術大学を設置する公立大学法人である原告が、大学名称、その略称・通称、及び英語名称を著名・周知であるとして、京都芸術大学(京都造形芸術大学から改称)を設置する被告に対し大学の名称の使用差止めを請求した事件です。
本件では、裁判所は大学の名称に著名性を認めるためには「大学の『営業』には学区制等の地理的な限定がないことに鑑みると、地理的な範囲としては京都府及びその隣接府県にとどまらず、全国又はこれに匹敵する広域において、芸術分野に関心を持つ者に限らず一般に知られている必要がある」としました。
原告大学関係者の肩書等としての表示は「そもそも原告の営業表示として使用されたものとはいい難い」とし、また、芸術家の経歴における表示は「活動それ自体や当該芸術家の他の活動等に関心を持つことはあっても、当該芸術家の経歴等にまで興味を持つとは必ずしもいえない」として、原告の商品等表示として「著名」なものということはできないとしました。
また、周知性については、「需要者」は「京都府及びその近隣府県に居住する者一般(いずれの芸術分野にも関心のないものを除く。)」であるとしました。
そして、原告の正式名称については、需要者が「原告大学を表示するものとして原告表示1を目にする機会は、相当に多い」として周知性を肯定しました。
一方、略称・通称については、「使用頻度はいずれも少ない」「多種多様な略称等を生じ、それぞれが一定程度使用されていること自体、原告大学の略称等として各表示それ自体が有する通用力がいずれもさほど高くない」として、周知性を否定しました。また、英語名称についても「使用される例のほとんどは、原告大学ロゴとして原告表示1と一体となっている」「日本語を解する者が、原告表示1(大学名称)の存在にもかかわらず、原告表示5(英語名称)にも更に注意を払うことは必ずしも多くない」として、周知性を否定しました。
しかし、裁判所は「『(京都)市立』の部分の自他識別機能又は出所表示機能は高い」「原告表示1の要部は、その全体である『京都市立芸術大学』と把握するのが相当であり、殊更に『京都』と『芸術』の間にある『市立』の文言を無視して『京都芸術大学』部分を要部とすることは相当ではない」として、両者の類似性を否定しました。
すなわち裁判所は、「市立」という語が名称に含まれるか否かによって需要者は営業主体を区別できる、と判断したことになります。
呉青山学院事件(東地判H13年7月19日)
本件は、「青山学院大学」「青山学院中等部」等の学校を設置運営する原告が、これらの名称が著名・周知であるとして、「呉青山学院中学校」を設置運営する被告に対し、被告が当該名称やその英語表記である「Kure Aoyama Gakuin」,「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」なる名称を用いる行為が不正競争行為に当たるとして、使用差止め、損害賠償等を求めた事件です。
裁判所は、原告の歴史が長いこと、入学志望者が全国的であり、全国規模で広報を行っていること、全国規模で学校への支援・交流体制が確立されていること、アンケートで「知名度が高い」「社会的に有名である」旨の回答が多かったこと、広報活動によって名声を高める努力をしており、登録商標を管理して冒用を防ぐ努力をしていること、などを理由として「原告名称は、遅くとも平成一一年三月までには、原告が行う教育事業及び原告が運営する各学校を表す名称として、学校教育及びこれと関連する分野において著名なものになっていた」とし、著名性を認めました。
また、両者の称呼、観念も類似するとして、著名冒用行為による使用差止めを認めましたが、具体的な損害が生じたとまではいえないとして、損害賠償を否定しました。
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