1 信用毀損行為(営業誹謗行為)とは
不正競争防止法は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為を信用毀損行為(営業誹謗行為)として、不正競争行為の1つの類型としています。
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
信用毀損行為をされた者は、相手方に対し差止や損害賠償の請求が可能です。
不正競争防止法上の信用毀損行為となるには、次の要件が必要です。
- 行為者と相手方が競争関係にあること
- 営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布すること
それでは、アフィリエイターが広告主と競合する他社の製品をディスった場合には、信用毀損行為となるでしょうか?
2 虚偽の事実とは
「虚偽の事実」とは、客観的真実に反する事実をいいます。事実を行為者が虚構したか、他人が虚構したかによらず、表現を緩和したものであっても、表現の実質的内容が客観的真実に反している場合は、虚偽の事実といえます。
アフィリエイターが意図的にウソをついて他社製品をディスった場合には、虚偽の事実を流布したといえそうですね。
3 アフィリエイターは広告主の競合他社と競争関係にあるか
不正競争防止法上の信用毀損行為となるためには、競争関係が存在することを要件とします。
非競争者間における誹謗等の信用毀損行為に問題がないというわけではありません。非競争者間での誹謗等が不正競争行為にはならない場合であっても、名誉毀損、業務妨害などで、民事、刑事上の責任を負うことがありますのでご注意ください。本稿ではこれらは割愛し、不正競争防止法上の信用毀損に焦点を絞ります。
アフィリエイターは製品の製造、販売業者ではありませんが、広告主(B社)の一定の製品について購入を勧めることによって、対価を得ています。つまり、アフィリエイターはA社と直接的に競合するわけではありません。
それにもかかわらず、アフィリエイターは広告主と競合する他社(A社)と「競争関係」にあるといえるでしょうか?
信用毀損行為における「競争関係」は、双方の営業につき、その需要者又は取引者を共通にする可能性があることで足りるとされています。アフィリエイターも、A社もB社も需要者は共通していますので、B社に対する信用毀損行為の結果、アフィリエイターや広告主(A社)が不当な利益を得るような場合には、アフィリエイターとB社は競争関係にあるといえそうです。
4 裁判例(大地判R2年11月10日)
4.1 事案の概要
アフィリエイターの信用毀損行為が問題となった裁判例をご紹介します。
本件の原告A社(通販会社)は商品Aを販売しています。訴外のアフィリエイターは、原告A社の販売する商品Aについて、訴外B社が販売する商品Bと比較して、コスメ情報のウェブサイトに次のような記載(記載1~6)をしました。
定価では商品Aと同じだけど…定期では商品Bがお得
価格はBの方が高コスパで良心的♡
商品B | 商品A | |
---|---|---|
お試し定期コース(税抜) | 2,682円+送料 | 2,482円+送料 |
年間定期購入 | 1本あたり2,532円+送料 (合計:7,599円/1年契約) | 1本あたり2,327円+送料無料 (合計:6,980円/縛りなし) |
内容量 | 10g | 15g |
定価では商品Aと同じだけど…定期では商品Bがお得
単品購入は商品Aも商品Bも同じ2980円ですが、定期コースでは商品Bがお得です。
2 サイトX(美容用品等の口コミサイト)で商品Aの口コミを見てみましたが、全体的な評価は2.0とかなり低めでした。効果なし、騙された、返品できないといった声が多いようです。
全く効果なしでした。
全然ダメです。
3 1本ずつ届くお試し定期コースでも、商品Bはいつでも解約OKなので、実質商品Bのほうが単品でもお得ということになりますね。
商品Aは定期コースを途中解約できない。
4 容器が大きい割に内容量はたったの10g商品Aの価格は商品Bよりもちょっと高いのですが、内容量も商品Bより5g少ない10gです。
1回量が結構多いのに10gしか入っていないので、商品Aはコスパが悪いな・・・と思っちゃいました。
5 商品Aの防腐剤や香料などの添加物は副作用アリ?
6 商品Aと商品Bを比較してきましたが、コスパや成分、口コミを見てみても、やっぱり商品Bの方がおすすめです。
原告A社は、アフィリエイターの記載1~6が、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するもの(不正競争防止法2条1項21号)であるなどとして、コスメ情報のウェブサイトが設置されていたウェブサーバーの管理者である被告に対し、発信者情報開示を求めました。
4.2 原告とアフィリエイターは競争関係にあったか
裁判所は競争関係について、
「不正競争防止法2条1項21号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為を不正競争行為と定めるところ、『競争関係』とは、現実の市場において商品の販売を競っているといった競合関係が存する場合に限られず、相手方の商品を誹謗したり信用を毀損したりするような虚偽の事実を告知又は流布することによって、相手方を競争上不利な立場に立たせ、その結果、行為者や行為者に対して告知又は流布行為を依頼した者などが、競争上不当な利益を得るような関係が存する関係にある場合も含む」としました。
そして、問題となるコスメ情報のウェブページにおいて、アフィリエイターが、商品Aと商品Bを比較してみた、という記載のもとで、一見、客観的に両商品についての情報を比較・提供するような体裁をとりながら次のような記載をしていることをもって、アフィリエイターが閲覧者に対しB社のウェブサイトを通じて商品Bを購入することを促すような仕組みを作っている、と認定しました。
- 商品Aと比較して商品Bの利点をより多く挙げ、商品Bの購入を勧めていること
- 商品Aの購入につながるリンクなどは設けない一方で、商品Bを購入することができるB社の公式ウェブサイトへのリンクを2箇所に目立つ形で設けていること
- リンクの近くに、商品Bを購入する場合にはB社の公式サイトから購入することを強く推奨する文章を記載していること
このような理由から、裁判所は、問題となるコスメ情報のウェブページは、アフィリエイターが「訴外会社(B社)と提携したり依頼を受けたりして制作したものであって、原告商品(商品A)の評価を低下させるような記載をすることにより、これと比較して第三者商品(商品B)の評価を上げ、販売を促進するという目的に沿うものであると考えるのが相当」であるとしました。
その上で、裁判所は、アフィリエイターは「訴外会社(B社)との関係上、第三者商品(商品B)の売上向上について利益を有する者であり、原告や原告商品の評価を低下させることによって不当な利益を得る関係に立つ者である」として、原告とアフィリエイターが、不正競争防止法2条1項21号の「競争関係」にあるとしました。
- コスメ情報のウェブページはアフィリエイターが広告主と提携したり依頼を受けたりして制作したもの
- 競合会社(原告)の商品の評価を低下させることによって、広告主の商品の評価を上げ販売を促進する目的に沿う
- アフィリエイターは、広告主の商品の売り上げ向上について利益を有する者であり、競合製品などの評価を低下させることによって不当な利益を得る関係に立つ者である
- 競合会社とアフィリエイターは、不正競争防止法2条1項21号の「競争関係」にある
すなわち、裁判所は、アフィリエイターはB社と提携した上でウェブページを作成して、B社と競合するA社の商品Aを虚偽事実をもとにディスることによって不当な利益を得ているのだから、アフィリエイターとA社の関係は競争関係にある、としたものです。
広告主と提携した上でウェブページを作成して、広告主の商品を褒めること自体はアフィリエイターとしては通常の行為です。しかし、そこで競合他社の製品について、競合他社の営業上の信用を害するような虚偽の事実を記載してはいけない、ということですね。
4.3 どの記載が問題とされたのか
記載1
裁判所は、記載1については、A社の年間購入コースの価格については、実際よりも高価な価格(2533円、実際は2384円)を記載し、また、単品購入の場合のB社の価格が実際よりも廉価とする記載(「同じ2980円」、実際は3300円)をしているとして、これらを虚偽の事実であり、原告A社の営業上の信用を害するものであるとしました。
記載2~6
記載2については、実際に存在しない書き込みを、転載を装って本件ウェブページ上に虚偽の記載をしたとまでは認められないなどとして、虚偽記載とは認めませんでした。
記載3については、A社のお試し定期コースは即時に途中解約できるにもかかわらず、「商品Aは定期コースを途中解約できない」と記載しており、商品Aはすべての定期コースにおいて途中解約することができず、商品Bと比較して需要者にとって不利な契約であるという誤解を生じさせるようにも思われる、としました。しかし、ある程度の注意を持って読めば、解約できないとされる商品Aのコースは、「年間購入コース」であると理解することができるとして、紛らわしい記載ぶりではあるものの、虚偽の事実の流布とまでは認定しませんでした。
記載4と記載6については、文章全体としては、筆者の個人的な感想又は主観的意見を述べたものにすぎないとして、虚偽事実の流布とはしませんでした。
記載5については、商品Aに含まれる防腐剤に副作用があるおそれを述べる記載であるが、商品A自体の危険性をいうものではなく、これに続く記述を読めば当該防腐剤についての記載、及び、商品Aに含まれる当該防止剤の量は明らかでないことを理解することができるとして、虚偽の事実の流布とまでは認定しませんでした。
以上より、裁判所は、記載1は、不正競争防止法上の競争関係にある本件発信者が、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するものであると認定しました。
なお、本件は発信者情報開示請求訴訟ですので、不正競争防止法に基づく損害賠償請求等の前段階として相手方(アフィリエイター)を特定するためになされたものです。今後、アフィリエイターに対し損害賠償請求がされるのか、その場合どのような損害が認められるのか、認められないのか、など、どのような展開になるのかは興味深いですね。
5 結局、虚偽事実の流布とされるのはどのような場合か
上記裁判例では、裁判例裁判所は、個人的な感想又は主観的意見を記載することを虚偽事実の流布とはしていません。また、本件ではかなり紛らわしい記載(記載3)についても虚偽事実の流布とはしませんでした。
一方で、客観的事実と明らかに異なる記載(記載1)については、虚偽事実の流布と認定しています。
どの程度の記載であれば個人的感想・主観的意見として許容されるのかは明らかではありませんが、アフィリエイターであっても意図的にウソを書いて競合製品をディスったりしないよう注意が必要です。
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