不正競争防止法の品質等誤認表示行為について

不正競争防止法は、商品の品質、内容等について誤認させるような表示をしたり、そのような表示をした商品を譲渡等する行為を不正競争行為としています(不正競争防止法2条1項20号、本記事では単に20号といいます。)。

不正競争防止法
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為

不正競争防止法において、商品に関しては、次のような事項について誤認させるような表示が規制対象となっています。

商品に関する品質等誤認表示
  • 原産地
  • 品質
  • 内容
  • 製造方法
  • 用途
  • 数量

それでは、商品について、上に列挙されていない事項について誤認させるような表示をした場合には、どうでしょうか。

創業時期の表示について争われた事案についてご紹介します。

八ッ橋事件第一審(京都地判令和2年6月10日、平30(ワ)1631号)

事案の概要

この事件は、京銘菓である八ッ橋を製造販売する会社がそれぞれ原告、被告となった事件です。被告は、店舗ののれん、看板、ディスプレイなどに次のような文言を含む表示をしていました。

被告の表示文言
  • 創業元禄二年
  • since1689

原告は、被告のこのような表示が、正当な根拠に基づかず、被告が製造、販売する商品及び役務の品質等を誤認させる表示であるとして、被告に対し表示の差止め、表示物の廃棄、損害賠償を求めました。

不正競争行為となるのは20号列挙事由に限られるか

原告は、誤認表示の規制対象となるのは品質や内容などの不正競争防止法に表示された事項に限定されず、来歴や製造者の歴史など需要者が商品の選択において考慮する商品の属性等の表示も含むとしました。すなわち、法に列挙される事項は例示列挙であり、限定列挙ではないと主張しました。

また、20号の事項が限定列挙であるとしても、商品の「品質」及び「内容」に関する表示には、品質、内容を直接的に示している表示のみならず、これらを示唆する間接的な表示も含まれるとも主張しました。

原告の主張
  • 20号の表示事項は例示列挙であり、来歴や製造者の歴史など需要者が商品の選択において考慮する商品の属性等の表示も含む。
  • 20号の表示が限定列挙であっても、「品質」「内容」に関する表示はこれを示唆する間接的な表示を含む。

これに対し被告は、20号は限定列挙であると主張しました。すなわち、これ以外の事項について誤認をさせるような表示をしても、不正競争行為とはならない、という主張です。

これについて、裁判所は次のとおり判示しました。

まず、裁判所は20号の立法経緯として「価格」「規格・格付」「供給可能量、販売量の多寡、業界における地位、企業の歴史、取引先、提携先等」に関する誤認惹起行為を不正競争とする社会的コンセンサスは形成されておらず「今後の我が国経済取引社会の実態の推移を慎重に見守りつつ、検討することが適当」であるとされたことに触れ、20号の誤認惹起行為について「民事上の措置として事業者による差止め及び損害賠償の請求を認めるだけでなく、不正の目的又は虚偽のものに限って刑事罰を設けているなどの強力な規制を設けているため(同法21条2項1号、5号)、不正競争行為となる対象についての安易な拡張解釈ないし類推解釈は避けるべきである」ことも考え合わせると、「20号の規制対象となる事項は、同号に列挙された事項に限定される」としました。

しかし、「20号に列挙された事項を直接的に示す表示ではないものも、表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示については、品質、内容等を誤認させるような表示という余地が残る」としして、創業年度の表示が品質、内容等の誤認表示になる余地を認めました。

裁判所の判示
  • 20号の規制対象となる事項は、同号に列挙された事項に限定される
  • 表示の内容が商品の優位性と結びつくことで需要者の商品選定に影響するような表示については、品質、内容等を誤認させるような表示という余地が残る

創業時期の表示は「品質」「内容」を誤認させるか

原告は八ッ橋の来歴や被告の創業時期について様々な主張を行ったようです。そして、八ッ橋の創業年あるいは販売開始年と来歴が、八ッ橋の品質、内容を推認させ、需要者の選択行動に影響すると主張しています。

原告の主張
販売開始年、来歴は品質、内容に関する事項である

これについて、裁判所は次にように判示しました。

「300年以上にわたる長い伝統を有することが商品の優位性を推認させる事情であるようにもみえる。しかし、そもそも、江戸時代におけることがらが、特段の資料なしに、正確にはわからないことは、全国の一般消費者である需要者にとっても、経験則上、推測できる」「需要者は、複数の事業者の店舗が並ぶのを見て、あるいはインターネットのホームページを見て、八ッ橋の発祥年や来歴につき、複数の業者により異なった説明がされていること、どれが正しいかの決め手もないことを簡単に知ることができると推認できる。前記のとおり、京都において、生八ッ橋など、八ッ橋よりも歴史が新しい菓子もまた、よく売れている。このことも、京都の老舗であるからといって、長い伝統が、需要者にとって当然に大きな意味を持つわけではないことを、推認させるといえる」として、「被告各表示に接した需要者が、歴史の古さが被告菓子の品質及び内容の優位性を推認させると受け取ることがあるとしても、それが、必ずしも需要者の行動を左右する事情であるとはいえない。被告各表示は、いずれも商品の品質及び内容の優位性と結びつき、需要者の商品選択を左右するとはいえないから、品質等誤認表示とはいえない。需要者の認識を考えれば、被告各表示は、もともと、創業が320年前のようであるという程度の受け止められ方になると推認され、これが実際と大きく異なるともいえず、誤認を招くとはいえない。」と、被告の表示が品質及び内容に関する誤認惹起表示ではないとしました。

裁判所の判示
  • 需要者が、歴史の古さが被告菓子の品質及び内容の優位性を推認させると受け取ることがあるとしても、それが、必ずしも需要者の行動を左右する事情であるとはいえない
  • 被告の表示は、商品の品質及び内容の優位性と結びつき、需要者の商品選択を左右するとはいえないから、品質等誤認表示とはいえない
  • 需要者の認識を考えれば、被告各表示は、もともと、創業が320年前のようであるという程度の受け止められ方になると推認され、これが実際と大きく異なるともいえず、誤認を招くとはいえない。

要するに、八ッ橋を買う人はその来歴に諸説あることも知っていてあまり気にしてないから、歴史の古さなどは購買者の行動を左右するような「品質」に関する表示とはいえない、と判断したものと思われます。