1 建築物の外観の保護

ユニークな外観の建築物は沢山存在します。国立新美術館釧路市立博物館東京ゲートブリッジなど枚挙に暇がありません。このような建築物の外観は法で保護されるでしょうか。

建築物の外観は「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)として著作権法による保護の対象になりますし、その外観に営業表示性、周知性が生じている場合には、不正競争防止法の保護の対象にもなります。また、建物の形状に識別力が生じている場合には立体商標として商標登録が可能です。

さらに、令和元年の意匠法改正によって令和2年4月1日より建築物・内装の意匠が保護対象となりました。

これによって、建物の外観は、次の複数の法律によって保護されることになります。

本記事では、意匠法による建築物の保護を取り上げます。

建築物の外観を保護する法律
  • 著作権法
  • 商標法
  • 不正競争防止法
  • 意匠法

2 建築物の意匠

従前は、意匠法上の保護対象は物品、すなわち取引の対象となり得る有体物の動産に限定されていたため、不動産である建物は保護対象ではありませんでした。

しかし、意匠法改正によって、建築物と画像も意匠法の保護対象に加わり、建築物も保護対象になりました。令和3年1月4日時点ですでに294件が出願されているそうです。

意匠法

第二条 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項第六号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

意匠法上の建築物とは、土地に定着した人工構造物のことをいいます。建築基準法の建築物よりも広く、建設される物体であればよく、土木構造物も含みます。これは、意匠の創作の対象となるものは広く意匠法で保護すべきであるという、意匠法の目的に基づくものとされています。

意匠法上の建築物としては、オフィスビル、住宅、ホテル、競技場、各種商業施設、駅舎、空港、橋りょう、電波塔などが挙げられます。

建築物の例
特許庁「意匠登録出願の基礎(建築物・内装)」より抜粋

3 意匠登録の要件

建築物の意匠といえども、登録の要件については従前と変わりありません。意匠登録の要件のうち、主なものは次のとおりです(これらに限られません)。

意匠登録の主な要件
  • 工業上利用できる意匠であること
  • 新規性(今までにない新しい意匠であること)
  • 創作非容易性(容易に創作をすることができた意匠でないこと)
  • 先に出願された意匠の一部と同一又は類似の意匠でないこと
  • 不登録事由(公序良俗違反、周知・著名商標と紛らわしい、物品の機能を確保するために不可欠な形状である、など)のある意匠でないこと
  • 先願性(他人よりも早く出願されていること)

4 意匠権による保護の特徴

意匠登録のハードルは格別高いものではなく、意匠登録の直後から排他的効力が生じます。著作権法における著作物性、不正競争防止法における周知性、商標法における立体商標としての自他商品識別力というようなというような高いハードルはありません。

例えば、建築の著作権による保護は著作物性を要しますので、国会議事堂、太陽の塔、美術館のように美術性を有する必要があり、工業製品である一般的な住宅は保護の対象になりにくいでしょう。一方で意匠法では同じものが大量に建築される工業化住宅であっても新規性、創作非容易性などの意匠登録の要件さえ充足していれば、保護対象となります。

ただし、意匠法による保護は意匠登録出願から25年であり、著作権法による保護が著作者の死後70年(無名・変名著作物、法人著作物等の場合は公表後70年)であったり、登録商標の保護期間が更新さえすれば半永久的であることに比べれば短いです。しかし、意匠法による保護は登録によって開始しますので、建築物完成時には保護対象になっている場合があります。これは、周知性や自他商品識別力を獲得するまでに要する期間よりは圧倒的に短いといえます。

知名度特許庁の審査保護開始保護期間
意匠権不要必要登録から直ぐ出願から25年
不競法周知性必要不要周知性獲得まで時間がかかるなし
商標権識別力必要必要識別力獲得まで時間がかかる登録から10年実質無制限
著作権著作物性必要不要創作からすぐ70年

このように、意匠権による建築物のデザインの保護は、建築物では獲得しにくいであろう周知性・著作物性・自他識別力などの高いハードルは必要なく、しかも登録直後から保護されるという点で使い勝手の良いものです。建築物のデザインは、少なくとも当初は意匠権で保護するのが確実かつ最善といえます。建築物は非常に高価で、それに比べると意匠登録出願費用は微々たるものですので、トラブル防止のため建築物の意匠登録を積極的に検討しない理由はありません。

笠原 基広