1 模倣品(パクリ商品・コピー商品)の問題点

商品やパッケージのデザインは、商品の売れ行きを左右する重要な要素です。消費者の購買意欲を引き出し、他社製品と差別化を図るために、企業はさまざまな工夫を凝らしています。

しかし、技術的な工夫や材料、仕上げといった商品自体の品質とは異なり、商品の外観デザインは一目で分かるため、模倣されやすいという課題があります。

自社の製品の外観デザインが模倣された場合、次のような問題が生じます。

模倣品の問題点
  • パクリ商品とオリジナル商品が混同される
  • パクリ商品が、オリジナル商品の顧客吸引力にただのり(フリーライド)して売れてしまう
  • パクリ商品は開発費用(デザイン費用)・宣伝費用をかけていないので、そのぶん価格競争力がある

模倣品を防ぐためには、商品の外観を次のような複数の法律で保護することができます。

商品の形態の模倣を防ぐ法律
  • 不正競争防止法(商品形態模倣行為)
  • 不正競争防止法(周知商品等表示混同行為)
  • 意匠法
  • 商標法

商品の形態は複数の法律で保護可能ですが、保護の要件、難易度と保護期間に違いがあります。

保護に要する知名度特許庁の審査保護期間
商品形態模倣不要不要発売から3年
周知商品等表示周知性必要不要なし
意匠権不要必要出願から25年
商標権識別力必要必要登録から10年
実質無制限

2 不正競争防止法による保護

2.1 商品形態模倣行為

不正競争防止法は、他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等の行為不正競争行為として、差止め、損害賠償等の対象としています。

不正競争防止法

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

(略)

三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

他人の商品の形態」とは、要するに商品の外観のデザインです。後に述べるような周知性や、意匠法のような新規性等も保護の要件として必要とされていません。ただし、あまりにありふれた形態や「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」は保護の対象から除外されます。

他人の商品の形態を「模倣した商品」を販売等すると、不正競争行為になります。この模倣はデッドコピーに近いものをいい、基本的な形態が同一または極めて類似していることを要します。したがって、保護の範囲はそれほど広くありません

ここで注意すべきなのは、本号の保護には期間の限定があることです。日本における最初の商品発売から3年経過した後には、商品形態模倣も不正競争となりません(不正競争防止法19条1項5号)。

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商品形態模倣が不正競争行為となるのは、次のような場合です。

商品形態模倣行為
  • 「商品の形態」を
  • 「模倣」したこと
  • 模倣した形態が「商品の機能を確保するために不可欠な形態」ではないこと
  • 日本における最初の商品発売から3年未満であること

不正競争防止法による商品形態模倣行為は、特許庁における審査や周知性といった要件は必要ありません。時間をかけて周知性や自他商品識別力を獲得する必要が無く、著作物性も不要ですので、商品を上市した直後からの保護が可能というメリットがあります。

しかし、保護期間が短く、保護の範囲(類似の範囲)も狭いというデメリットもあります。

2.2 周知商品等表示混同惹起行為

発売した商品が有名になって、その形態が広く知られるに至った場合には、周知商品等表示として保護される可能性があります(不正競争防止法2条1号)。

不正競争防止法

第2条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

(以下略)

すなわち、商品の外観が「商品等表示」として「需要者に広く認識されている」場合に、これを模倣して「他人の営業と混同を生じさせる」場合には、不正競争となり、譲渡等の差止め、損害賠償の対象となる可能性があります(周知商品等表示混同行為)。

周知商品等表示混同行為
  • 他人の商品等表示として
  • 需要者に広く認識されているものと
  • 同一若しくは類似の商品等表示を使用等して
  • 他人の営業と混同を生じさせる行為

商品の形態が周知商品等表示といえるためには、次の要件が必要です。

周知商品等表示の要件
  • 当該商品の形態が他の同種商品と識別しうる程度の特徴を有すること
  • 需要者に、特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められること

商品等表示の周知性については、次の記事もご参考になさってください。

このように商品の形態が周知な商品等表示に至ったといえる場合には、類似する形態の商品を譲渡等してオリジナルの商品と混同を生じさせる行為は不正競争行為となり、差止め、損害賠償の対象となります。

ここでいう「混同」は、営業主体が同一と誤信させる混同(狭義の混同)のみならず、営業主体の間に何らかの関係があるのではないかと誤信させる混同(広義の混同)のおそれがあればよいといわれています。

周知商品等表示混同行為を用いる商品の形態保護は、特に出願等は必要なく期間制限もない反面、商品形態が「商品等表示」として周知に至っている必要があり、保護のハードルはとても高いです。

3 意匠法による保護

商品の形態は意匠法上の「意匠」にあたり、これを意匠登録出願し一定の要件を充足すると意匠権を取得することができます。意匠権を取得した人は、登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有することになります。意匠権の保護期間は、従前は設定登録から20年でしたが、令和2年4月1日施行の法改正で出願から25年となりました。

意匠登録の主な要件は次のとおりです。不正競争防止法における保護と異なり、意匠登録出願をして特許庁の審査を受けて意匠登録される必要があります(これ以外にも意匠登録に必要な要件はあります)。

意匠登録の主な要件
  • 工業上利用できる意匠であること
  • 新規性(今までにない新しい意匠であること)
  • 創作非容易性(容易に創作をすることができた意匠でないこと)
  • 先に出願された意匠の一部と同一又は類似の意匠でないこと
  • 不登録事由(公序良俗違反、周知・著名商標と紛らわしい、物品の機能を確保するために不可欠な形状である、など)のある意匠でないこと
  • 先願性(他人よりも早く出願されていること)

意匠法による保護を得るには、対象となる商品が売れるか売れないか不明な設計段階で意匠登録出願をし、特許庁での審査を経て意匠登録される必要があります。意匠登録出願には費用もかかりますので、あらかじめ保護の必要性があるとわかっている製品デザイン(例えば自動車、家電、ガジェットなど)について、意匠法による保護を求めることが多いでしょう。

一方で、意匠登録のハードルはさほど高くなく、意匠登録さえすれば排他的効力が生じます。

4 商標法による保護

商品の形態が広く知られるようになって、アイコニックな形態として認識されるようになったとき、すなわち、商品の形態を見た人が誰の商品か思い浮かぶような状態になったとき、商品の形態は自他商品識別力を獲得するに至ったといえます。自他商品識別力を獲得した商品の立体的形状は、立体商標として商標登録することが可能です。ただし、商品が当然に備える立体的形状のみからなる商標は商標登録できません。

商標登録が認められた場合、商標登録の日から10年間保護されますが、保護期間は更新可能ですので、更新さえすれば半永久的に形態の保護が可能です。

立体商標として登録されるための自他商品識別力獲得のハードルは高いですが、半永久的に商標として登録され、登録商標表示ができるため、模倣の抑止力も高いです。

5 著作権法による保護

商品の形態が作成者の個性が発揮されている著作物として保護されるようなものである場合には、著作権による保護も可能かもしれません。ただし、応用美術として工業製品に著作物性が認められる要件は実務的には未だ不明であり、今後の裁判例の蓄積が待たれます。

6 法律の使い分け

このように各法律にはそれぞれ保護の要件、難易度、保護期間について違いがありますので、次のように使い分けるのがいいでしょう。

法律の使い分け
  • 商品形態模倣行為発売から間もない商品のデザインをデッドコピーから保護する。
  • 周知商品等表示混同行為知名度を獲得した商品のデザインを保護する。
  • 意匠法最初から保護が必要とわかっているデザインについて、あらかじめ出願して保護する。意匠登録直後からの抑止効果。
  • 商標法知名度を獲得した商品のデザインを保護する。商標登録表示による抑止効果。

 

笠原 基広