この記事のまとめ

MTAとはMaterial Transfer Agreementの略です。日本語では成果有体物移転契約、物質移動合意書、成果物提供契約、試料移転契約などとよばれていますが、未だ定訳はないようです。

MTAは研究開発の成果として得られた有体物(試料・マテリアル)や、ヒトや実験動物などから得られた稀少な生体試料について、その取扱いを定めることを目的としています。

MTAの対象となる有体物は費用をかけて取得したものであったり、技術情報や知的財産が化体していることがあり、所有権を留保して提供するにせよ、所有権を移転するにせよ、提供後の取扱いをコントロールできるような仕組みが必要となります。

MTAを締結することによって、提供後の有体物の適正な取扱いを契約上の債務として受領者に負担させることが可能となります。また、適正な取り扱いを担保することによって、有体物の提供が容易となり、研究者間の自由な研究が促進されます

詳細は以下をご覧下さい。

1 MTAはなぜ必要か

MTAは、研究成果等として得られた有体物・試料・マテリアル(この記事では「有体物」といいます。)の取扱いを定める契約のことです。

MTAの対象となる有体物としては、例えば、動植物やヒトから採取された生体組織、実験動物、菌株、種子、試薬、資料、物質等が挙げられます。

それでは、なぜMTAが必要となるのでしょうか。

MTAの対象となるような有体物は、提供者の研究成果であったり、費用をかけて取得したものであったりします。また、発明などの知的財産が化体していることも多いです。よって、研究目的で有体物を他者に提供したにもかかわらず、これが提供者のコントロールの及ばない第三者に流出したり、想定されていなかった態様で使用されたり、研究成果をコントロールできないような事態になると、提供者にも不都合が生じかねません。

よって、研究成果である有体物を他者に提供する場合、その適正な取り扱いや、情報流出の防止を担保する必要があります。

有体物には所有権がありますので、所有権者はその移転や使用態様を一定の範囲でコントロールすることは可能です。しかし、有体物が研究活動で消費されてしまうと、所有権のコントロールが及ばなくなります。また、有体物の使用方法や有体物を用いた研究から派生した成果に対しても、所有権に基づくコントロールがどこまで及ぶかは微妙なところです。

所有権によらず、有体物の使用態様や移転にコントロールを及ぼすためには、契約によるしかありません。

そこでMTAを締結し、移転後の移転先の行為について債権的な規制を及ばせることによって、適正な取扱いを担保することが可能となります。また、適正な取り扱いを担保することによって、有体物の提供が容易となり、研究者間の自由な研究が促進されます。

今すぐAK法律事務所に相談する

今すぐAK法律事務所に相談する

今すぐメールする
ak@aklaw.jp
メール相談は24時間受付中

2 MTAの条項例

2.1 MTAによくみられる規定

MTAによくみられる規定は次のようなものです。

MTAによくみられる規定
  • 対象となる有体物の範囲
  • 使用目的、使用態様
  • 第三者への無断提供禁止
  • 研究成果・知的財産権の帰属
  • 適正な取扱い義務
  • 免責
  • 返却

MTAには通常の譲渡契約や秘密保持契約とは毛色の異なる条項があります。そのようなMTAによくみられる条項の趣旨と文例は次のとおりです。なお、以下の条項は大まかなイメージをしていただくための簡略化したものですので、実際の契約では契約条件に応じてアレンジする必要があります。

なお、以下の条項例では、移転の対象となる有体物を「本有体物」、有体物の提供元を「提供者」、提供先を「受領者」としています。

2.2 有体物の範囲

MTAの移転対象が細胞などのバイオマテリアルや菌株の場合には、培養等で増殖・継代させたり、改変することが可能です。よって、有体物を増殖させて生じたものや、その修飾物、派生物等も契約上の有体物の範囲に入れて規制を及ぼす必要があります。

条項例ー有体物の範囲

本契約の有体物(以下、「本有体物」という。)とは、_______をいい、その子孫、増殖物、派生物、修飾物及び改変物もこれに含む。

2.3 有体物の使用目的・態様

有体物には生体組織や物質などがありますが、これをヒトに使用しないアカデミアでの使用に限定する、というように使用目的、態様をコントロールするのが一般的です。

また、生体組織などは培養が可能であり、継代の可否といった規定が必要となる場合があります。

条項例ー使用目的

受領者は、本有体物を、別紙記載の研究目的以外の目的に使用してはならない。

受領者は、本有体物をヒトに使用してはならない。

2.4 第三者への無断提供禁止

有体物の所有権が提供者から受領者に移転したような場合にも、提供者は、有体物を用いる研究等を提供先に限定し、第三者への更なる提供は禁止するのが一般的です。

有体物は動産ですので、移転が容易で、受領者からいったん契約上の義務を有さない第三者に移転されてしまうと、その先の流通や使用態様をコントロールする有効な手段がありません。よって、そのような流通を防止するため、第三者への提供に提供者の同意を要すると規定することが多いです。

条項例ー第三者への無断提供禁止

受領者は、提供者の文書による許諾なく、本有体物を第三者に対し、譲渡し、移転し、頒布し、貸与し及び引渡してはならない。

2.5 研究成果・知的財産

受領者が有体物を用いて研究をしたことにより、発明等の知的財産が生じる場合があります。そのような知的財産の創出には、もともと有体物が有していた性質や、提供者の寄与が大きい場合があります。そこで、提供者、受領者の利益を調整するため、知的財産の帰属等について事前に定めておく必要が生じます。

条項例ー研究成果・知的財産

本有体物より発明、発見、考案その他の成果が生じた場合、受領者は直ちに提供者にその内容を通知し、協議によってその取扱いを定める。

2.7 適正な取扱い

MTAの対象となる有体物は未知の危険性を孕む場合があり、適正な取扱いを担保する必要があります。例えば細菌類などはその危険度に応じた施設で取り扱われるべきなのは当然です。

条項例ー適正な取り扱い

受領者は、本有体物を、関連する諸法規、国又は公的機関の定める規制及びガイドライン並びに公序良俗に従って取り扱わなければならない。

2.8 免責

有体物は現状有姿で提供されるものですので、何らの保証を伴わず、これによって生じた損害についても提供者が免責される旨を定めます。

条項例ー免責

提供者は、受領者による本有体物の使用、保管若しくは廃棄より生じ又は生じうる、受領者又は第三者に対する損失、損害、疾患、権利侵害(第三者の知的財産権侵害を含むが、これに限られない)その他いかなる不利益又は損害についても、一切の責任を負わない。

2.9 有体物の返却

契約期間の終了後も受領者が有体物を保有しこれを自由に使用できるとなると、契約で様々な制限をした意味がありません。よって、契約終了時に、提供者の指示に基づいて、有体物を返還するか、これを廃棄する旨を定めます。

条項例ー返却

受領者は、本契約の終了時に、提供者の指示に従い、受領者の保有する全ての本有体物を提供者に返却し又は廃棄する。

2.10 一般条項

上記の条項のほかにも、他の契約と同様に、秘密保持、契約の有効期間と有効期間後の契約の効力(余後効)、準拠法、裁判管轄といった一般条項を設けます。

3 MTAのひな形例

3.1 簡潔なMTAのひな形例

上記をまとめた簡潔なMTAのひな形例は次のリンクよりダウンロード可能です。ご覧いただいた上でお役に立ちそうでしたら、ご自由にお使い下さい。

このひな形は代表的な条項を簡潔に記載したもので、実際の契約条件に合わせて適宜修正・変更が必要です。このひな形を使用したことにより損害等が生じても、一切の責任を負えませんので、ご了承のうえ、自己責任でお使い下さい。

DOWNLOAD

ダウンロードリンクをメール

個人情報取り扱い同意書を読んで同意しました。

3.2 各種研究機関のMTAひな形へのリンク

複数の研究機関がMTAのひな形を公開していますので、参考になさってください。

規則・様式等一覧 | 東京大学 産学協創推進本部
研究成果物の取扱い及びMTA|東北大学産学連携機構
ポリシー・規程・様式 | 大阪大学共創機構

笠原 基広