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MTAとはMaterial Transfer Agreementの略です。成果有体物移転契約、物質移動合意書、成果物提供契約、試料移転契約などとよばれていますが、未だ定訳はないようです。
研究開発の成果として得られた有体物(試料・マテリアル)や、ヒトや実験動物などから得られた稀少な生体試料について、その取扱いを定めることを目的としています。
MTAの対象となる有体物は、費用をかけて取得したものであったり、技術情報や知的財産が化体していることがあり、所有権を留保して提供するにせよ、所有権を移転するにせよ、提供後の取扱いをコントロールできるような仕組みが必要となります。
MTAを締結することによって、提供後の有体物の適正な取扱いを契約上の債務として受領者に負担させることが可能となります。
詳細は以下をご覧下さい。
◆MTAの目的
MTAは、主に研究成果等として得られた有体物・試料・マテリアル(この記事では「有体物」といいます。)の取扱いを定める契約のことです。
MTAの対象となる有体物としては、例えば、動植物やヒトから採取された生体組織、実験動物、菌株、種子、物質等が挙げられます。
それでは、なぜMTAが必要となるのでしょうか。
MTAの対象となるような有体物は、提供者の研究成果であったり、費用をかけて取得したものであったりします。また、発明などの知的財産が化体していることも多いです。
MTAには提供者に所有権を留保する規定を設けているものが多いですが、有体物を研究目的で他者に提供する際には研究活動で消費されることになりますし、それから派生した成果に対して、所有権に基づくコントロールがどこまで及ぶかは微妙なところです。また、所有権に基づかないコントロールをするとすれば、契約によるしかありません。
そこでMTAを締結し、移転後の移転先の行為について債権的な規制を及ばせることによって、適正な取扱いを担保することが可能となります。
MTAによくみられる規定は次のようなものです。
- 対象となる有体物の範囲
- 第三者への無断提供禁止
- 研究成果・知的財産権の帰属
- 使用目的、使用態様の限定
- 適正な取扱い義務
- 免責
◆MTAの条項例
MTAには通常の譲渡契約や秘密保持契約とは毛色の異なる条項があります。イメージしていただくための簡略化したものになりますが、MTA条項の趣旨と文例は次のとおりです。
なお、以下の条項例では、移転の対象となる有体物を「本有体物」、有体物の提供元を「提供者」、提供先を「受領者」としています。
有体物の範囲
MTAの移転対象が細胞などのバイオマテリアルや菌株の場合には培養等で増殖させたり、改変することが可能です。よって、有体物を増殖させて生じたものや、その修飾物、派生物等も契約上の有体物の範囲に入れて規制を及ぼす必要があります。
第三者への無断提供禁止
有体物の所有権が提供者から受領者に移転したような場合にも、提供者は、有体物を用いる研究等を提供先に限定し、第三者への更なる提供は禁止するのが一般的です。
有体物は動産ですので、移転自体は容易で、いったん契約上の義務を有さない第三者に移転されてしまうと、その先の流通をコントロールする有効な手段がありません。よって、そのような流通を防止するため、第三者への提供に提供者の同意を要すると規定することが多いです。
研究成果・知的財産
受領者が有体物を用いて研究をしたことにより、発明等の知的財産が生じる場合があります。そのような知的財産の創出には提供者の寄与が大きい場合もあります。よって、提供者、受領者の利益を調整するため、知的財産の帰属等について事前に定めておく必要が生じます。
有体物の使用目的・態様のコントロール
有体物には生体組織や物質などがありますので、これをヒトに使用しない、アカデミアでの使用に限定する、というように使用目的、態様をコントロールするのが一般的です。
また、生体組織などは培養が可能であり、継代の可否といった規定が必要となる場合があります。
受領者は、本有体物をヒトに使用してはならない。
適正な取扱い
MTAの対象となる有体物は未知の危険性を孕む場合があり、適正な取扱いを担保する必要があります。例えば細菌類などはその危険度に応じた施設で取り扱われるべきなのは当然です。
免責
有体物は現状有姿で提供されるものですので、何らの保証を伴わず、これによって生じた損害についても提供者が免責される旨を定めます。
◆MTAのひな形例
複数の研究機関がMTAのひな形を公開していますので、参考になさってください。
規則・様式等一覧 | 東京大学 産学協創推進本部
研究成果物の取扱い及びMTA|東北大学産学連携機構
ポリシー・規程・様式 | 大阪大学共創機構