ブランド農産物の危機

日本のブランド農産物、「あまおう」や「シャインマスカット」の種苗が海外に持ち出され、現地で勝手に栽培されているようです。

従来もブランド農産物については種苗法による保護が可能でした。しかし、いったん種苗が輸出されてしまうと日本法が及びませんし、登録品種であっても適法に譲渡された種苗の流通や海外への持ち出しは特に制限されていませんでした。

そこで、令和3年4月1日に施行される改正種苗法では、登録品種の海外持ち出しを制限でき、ブランド農産物の持ち出し制限の実効性を図れるようになりました。

農林水産省は9日、海外への持ち出しを禁止する農産物のリストを初めて公表した。イチゴの「あまおう」など約1900品種を盛り込んだ。1日に一部施行された改正種苗法にもとづく制度で優良品種の海外流出を防ぐ。「あまおう」など種苗の海外持ち出し禁止 農水省リスト: 日本経済新聞

では、改正種苗法で禁止される行為にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は種苗法について、主にユーザー側が留意すべきポイントを取り上げました。

種苗法の概要

種苗法の規定では、育成者が、新しく育成した農林水産植物の種や苗(種苗)について農林水産省に品種登録の出願をして品種登録を受けると「育成者権」を取得することできます。他人が登録品種を利用する為には育成者権者の許諾が必要となります。

種苗法の保護は登録品種に及びますが、従前から一般的に利用されている品種や、育成者権の存続期間が満了した品種には適用されません。なお、日本で流通している農産物の8割から9割は、種苗法の規制の及ばない一般品種ですので、種苗法はブランド農産物のようなごく一部の登録品種を保護する制度といえます。

育成者の権利

育成者権者は、業として登録品種を利用する権利を専有します。また、登録品種に由来し、その特性の一部を変化させて育成された品種(従属品種)や、繁殖のために登録品種を常に交雑する必要のある品種(F1品種、交雑品種)が新たに品種登録された場合には、これらの品種の育成権者と同一の種類の権利も専有します。著作物と二次的著作物の関係みたいですね。

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種苗法
第二十条 育成者権者は、品種登録を受けている品種(以下「登録品種」という。)及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を専有する。ただし、その育成者権について専用利用権を設定したときは、専用利用権者がこれらの品種を利用する権利を専有する範囲については、この限りでない。
2 登録品種の育成者権者は、当該登録品種に係る次に掲げる品種が品種登録された場合にこれらの品種の育成者が当該品種について有することとなる権利と同一の種類の権利を専有する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
一 変異体の選抜、戻し交雑、遺伝子組換えその他の農林水産省令で定める方法により、登録品種の主たる特性を保持しつつ特性の一部を変化させて育成され、かつ、特性により当該登録品種と明確に区別できる品種
二 その品種の繁殖のため常に登録品種の植物体を交雑させる必要がある品種

種苗の利用とは

育成者権者は、業として登録品種の利用をする権利を専有しますが、ここでいう「利用」とはどのような行為をいうのでしょうか。

品種の「利用」とは次のような行為をいいます(種苗法2条5項1号、2号)。育成者権者以外の者は登録品種についてこれらの行為をすることができません。

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種苗法
第二条
(略)
5 この法律において品種について「利用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 その品種の種苗を生産し、調整し、譲渡の申出をし、譲渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為
二 その品種の種苗を用いることにより得られる収穫物を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為(育成者権者又は専用利用権者が前号に掲げる行為について権利を行使する適当な機会がなかった場合に限る。)
三 その品種の加工品を生産し、譲渡若しくは貸渡しの申出をし、譲渡し、貸し渡し、輸出し、輸入し、又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為(育成者権者又は専用利用権者が前二号に掲げる行為について権利を行使する適当な機会がなかった場合に限る。)
品種の利用とは
種苗の
 生産
 調整
 譲渡の申出
 譲渡
 輸出
 輸入
 上記目的で保管
種苗によって得られる収穫物の
 生産
 譲渡若しくは貸渡しの申出
 譲渡
 貸し渡し
 輸出
 輸入
 上記目的で保管
加工品の
 生産
 譲渡若しくは貸渡しの申出
 譲渡
 貸し渡し
 輸出
 輸入
 上記目的で保管

ただし、の行為について、の行為について権利行使する適当な機会が無かった場合に限ります。

具体的には、種苗・収穫物・加工品の生産、売買、贈与、店頭への展示、輸出入、収穫物・加工物のレンタルなどが挙げられますが、収穫物、加工品については上述の制限があります。

育成者権の保護期間は、品種登録後最長25年間です(果樹等の永年性植物は最長30年間)。

種苗の輸出・栽培

適法に譲渡された種苗については、育成者権が消尽してしまうため、旧法では輸出等は制限できませんでした。また、購入した種苗をどこで栽培することも可能でした(種苗の生産を除く)。しかし、改正種苗法では、次のような行為も制限できるようになりました。

種苗の海外持ち出し

育成者は、品種登録出願時に、品種の保護が適正に行われる国を「指定国」として指定し、指定国以外の国への種苗の持ち出しを制限できます。

また、既に出願中ないし登録済みの品種については経過措置として、指定国の届出が可能です。

海外持ち出しが制限されている品種は、農林水産省のウェブサイトで公示されています。

国内の栽培地域指定

品種登録出願者は、登録品種の産地を「指定地域」として指定し、それ以外での栽培を制限できます。これも上記同様の経過措置があります。

育成権を侵害した場合

育成権を侵害した場合、品種の生産・販売等の利用行為の差止め損害賠償等の対象になります。さらに、税関における輸出入の差止めも可能です。

また、故意の侵害行為をした者には、10年以下の懲役1千万以下の罰金、これらの併科という刑事罰が科されることがあります。さらに、法人は3億円以下の罰金となります。

ブランド果物を海外に持ち出すと育成者権侵害?

種苗業者は、海外持ち出しが制限される登録品種の譲渡時に、その種苗が品種登録されている旨と海外への持ち出しに制限がある旨の表示をその種苗又は包装に付す義務がありますので、制限が付された種苗は表示によってわかる仕組みとなっています。

なお、個体の増殖又はこれを栽培して育てることを目的として譲渡される「種苗」については海外への持ち出し制限、栽培地の制限が課されます。

しかし、食用の「穀物」や「青果」、観賞用の「切花」や「鉢花」として譲渡される収穫物は、譲渡後に個体の増殖又はこれを栽培して育てることを目的としていないため、これらの制限は課されません。

よって、種苗法上は、登録品種であっても「青果」「穀物」を消費目的で持ち出す限りにおいては、育成者権を侵害しないことになります(ただし、植物検疫等の問題はあるのでご注意下さい)。