技術的制限手段に関する最高裁判例

昨日は不正競争防止法の技術的制限手段について取り上げました。

昨日の記事に関連して、令和3年3月1日に技術的制限手段を回避するソフトウェアを頒布したことによる不正競争防止法違反事件(刑事事件)の最高裁判決がありました。

技術的制限手段の効果を妨げるソフトウェア、の意義について興味深い判示がされています。

本日はこの最高裁判例を取り上げたいと思います(4月8日、本稿を大幅に修正しました)。

事案の概要

本件は、ある会社の配信する電子書籍が特定の書籍ビューアソフト(本件ビューア)以外で視聴できないよう影像の視聴・記録が制限されているにもかかわらず、被告らの属するプログラムソフト開発会社がこの影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムをネットを通じて提供したとして、同会社の代表取締役らが不正競争防止法違反で起訴された刑事事件です。

本件ビューアは、暗号化された電子書籍の影像を復号して閲覧可能とするもので、「G」というソフトウェアが組み込まれています。このソフトウェアGは、ウィンドウズの標準機能であるWindows APIを改変し画面キャプチャを無効にするプログラムです。

電子書籍ビューアの画面がキャプチャされてしまうと、もはや何のプロテクトもされていない単なる画像ファイルが生成されることになってしまいますので、キャプチャした電子書籍画像を他の機器で自由に閲覧することができてしまいます。ソフトウェアGはこの画面キャプチャを禁止する機能を担っていました。

被告らの会社は、ソフトウェアGを無効化して、復号後の電子書籍の影像を記録・保存することを可能とするソフトウェアF3をネットで頒布していました。この行為が、技術的制限手段を回避するプログラムを頒布していたとされて、不正競争防止法2条1項10号(現17号)違反とされました。

問題となった行為類型
営業上用いられている技術的制限手段により制限されている映像の視聴等を、当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

控訴審:大高判平成29年12月8日・平28(う)598

控訴審では、ソフトウェアF3が、配信者が電子書籍を配信するにあたって施している「営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴等を可能とする機能を有するプログラム」に該当するかが争点となりました。他にも争点はありますが、本稿ではこの争点のみ取り上げます。

これについて、裁判所は次のように判示しました。

「営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能」とは、営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像、音の視聴、プログラムの実行、影像、音、プログラムの記録を可能とする機能を指すものと解するのが相当である。本件において、C社がD形式ファイルにより電子書籍の影像を配信するにあたり、その閲読のために本件ビューアによる復号化が必要になるようコンテンツを暗号化しているのが、技術的制限手段に該当することは明らかであるところ、この技術的制限手段の効果は、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということであるというべきである。

そして、本件ビューアに組み込まれたプログラムであるソフトウェアGは、本件ビューアがインストールされた機器が表示する電子書籍の影像がキャプチャされて、他の機器でも自由にコンテンツが表示できるようになるのを防ぐ目的で、電子書籍の影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであって、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果が妨げられる事態のより確実な防止を目指すものである。すると、このソフトウェアGが行った制御と反対の制御を行うことによって影像のキャプチャを再度可能ならしめるF3は、結局のところ、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないという効果を妨げるものにほかならないプログラムということができる。

したがって、F3が、法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム」に該当するとした原判決は正当であって、電気通信回線を通じてF3を他者にダウンロードさせて提供する行為は、不正競争行為にあたるというべきである。大高判平成29年12月8日・平28(う)598(裁判所ウェブサイト)

すなわち裁判所は、本件の技術的制限手段手段は、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器でコンテンツが表示されることを妨げる効果を有しており、ソフトウェアGも同様の効果を有しているのだから、この効果を妨げるソフトウェアF3は「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム」にあたると判示しています。

ところで、ソフトウェアGは、不正競争防止法の技術的制限手段そのものになるでしょうか?ソフトウェアGは、信号を付与するわけでもなく、暗号を復号するわけでもありませんので、不競法上の技術的制限手段にはあたりません。あくまでも技術的制限手段は、電子書籍の暗号化です。

裁判所はソフトウェアGが不競法の技術的制限手段にあたらなくとも、「C社が電子書籍に施した暗号化という技術的制限手段の効果が、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないということであると解する」としています。そして、暗号化に限らず、その効果を無効化するものであれば、技術的制限手段の効果を妨げている、と判断しているようです。

弁護人は、前述のとおり、様々に主張するが、その中心的な所論は、処罰範囲の明確化の観点からは、法2条1項10号にいう技術的制限手段の効果を妨げるとは、本件に即していえば、暗号化という技術的制限手段それ自体を無効化することと解釈すべきであり、原判決がいうようなC社の主観的意図で禁止範囲が確定されるような解釈は、技術的制限手段の効果の意味を拡大して処罰範囲を拡大するものであって不当である、というものである。

しかしながら、C社が電子書籍に施した暗号化という技術的制限手段の効果が、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器ではコンテンツの表示ができないということであると解することは、不自然な理解でもなければあいまいな理解でもなく、本件ビューアがインストールされた機器以外の機器でもコンテンツが表示できるようにすることが技術的制限手段の効果を妨げることにあたると解するのが不明確であるかのようにいう弁護人の主張は、独自の主張であって採用することができない。付言すると、弁護人が本件の場合に採るべき解釈として主張する内容は、結局のところ、電子書籍が暗号化されることが技術的制限手段の効果である、との解釈であると解されるが、それは、暗号方式という技術的制限手段の効果が暗号化自体であるというにほかならず、同義反復であって、弁護人の主張は、法文が「効果」という用語を用いていることを看過しているといわざるをえない。大高判平成29年12月8日・平28(う)598(裁判所ウェブサイト)

また、裁判所は、本件は不競法2条1項10号(現17号)の不正競争行為(昨日の記事でいうとの類型にあたるものと思われます)であるとしています。

これについて被告ら側は、本件の電子書籍は正当なIDを持つ者しか閲読できないので11号(現18号)の行為(昨日の記事でいうとの類型にあたるものと思われます)にあたると主張していますが、裁判所は、次のとおり10号の不正競争行為であると判断しています。

確かに、C社がD形式のファイルで提供する電子書籍は、C社の正当なIDを持つ者しか閲読できないかもしれないが、C社が電子書籍に施す暗号化は、直接には、本件ビューア以外のプログラムによるコンテンツの表示、閲読を不可能にするという機能を有するものであり、IDを有してさえいればどのような機器あるいはプログラムであってもコンテンツの表示、閲読ができるというわけではない以上、本件が、法2条1項11号でなく、同項10号の場合にあたることは明らかである。大高判平成29年12月8日・平28(う)598(裁判所ウェブサイト)

上告審:最小判令和3年3月1日・平30(あ)10

控訴審判決を不服として、本件は上告されました。

最高裁は次のとおり述べて、控訴審判決を維持しました。

所論は、本件技術的制限手段は、視聴等機器が特定の変換(復号)を必要とするよう影像を変換して送信する暗号化の方式によるものであるところ、F3は復号の機能を有しないから技術的制限手段の効果を妨げるプログラムではないと主張する。

(中略)

本件技術的制限手段は、ライセンスの発行を受けた特定の視聴等機器にインストールされた本件ビューアによる復号が必要となるよう、電子書籍の影像を暗号化して送信し、影像の視聴等を制限するものであった。

Windows対応版の本件ビューアには、復号後の影像の記録・保存を防止する機能を有し、本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラムである「G」が組み込まれていた。Gは、本件ビューアを構成するプログラムの一つとして、本件ビューアと同時にインストールされ、Gのない状態では、本件ビューアは起動せず、ライセンスの発行を受けることも送信された影像の視聴もできないようにされていた。

F3は、Gの上記機能を無効化し、復号後の電子書籍の影像を記録・保存することにより、本件ビューア以外での上記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムであった。

以上の事実関係によれば、Gの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり、これを無効化するF3は、技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。最小判令和3年3月1日・平30(あ)10(裁判所ウェブサイト)

最高裁は、控訴審と同様、「技術的制限手段の効果」を無効化するものであれば、暗号化というような技術的制限手段に直接関係しなくとも「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム」にあたるとしています。

本件の技術的制限手段は電子書籍の影像信号の暗号化であり、これは本件ビューア以外で復号できません。よって、その効果は「本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限する」というものです。ところが、プログラムF3は、画面キャプチャを許すことによって本件ビューア以外での影像の視聴を可能にしてしまいますので、「技術的制限手段の効果」を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに該当するということになります。

この最高裁判決は、あまり詳しい理由付けなどに言及しておらず、控訴審の判断を追認するような判示がされているのみです。

コメント-「手段」と「効果」の峻別

不正競争防止法は、技術的制限手段を信号方式、暗号方式の2類型で定義しています。まず、この2方式のいずれかによる影像の視聴等の制限がされていることが、不競法適用の大前提となります。

この2方式のいずれかである技術的制限手段が講じられていることを前提として、この2方式のいずれかの技術的制限手段で実現される「技術的制限手段の効果」を妨げるか否かが判断基準となる、ということが、本判決で明らかになりました。

本判決の判断手順
  1. 信号方式、暗号方式のいずれかの技術的制限手段が適用されているかを認定する(電子書籍の暗号化)
  2. 技術的制限手段の効果は何かを認定する(「本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限する」効果)
  3. 技術的制限手段の効果が妨げられているかどうかを認定する

不競法2条1項10号(現17号)は、営業上用いられている技術的制限手段により制限されている映像の視聴等を、当該技術的制限手段効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為を不正競争行為として定めます。最高裁は、この技術的制限「手段」と技術的制限手段の「効果」とを峻別し、「効果」は必ずしも「技術的制限手段」から直接生じたものでなくともよいと判断しています。

最高裁はソフトウェアGと本件ビューアの一体性について直接の言及をしていませんが、これらに一体性があることを事実認定しています。

Windows対応版の本件ビューアには、復号後の影像の記録・保存を防止する機能を有し、本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラムである「G」が組み込まれていた。Gは、本件ビューアを構成するプログラムの一つとして、本件ビューアと同時にインストールされ、Gのない状態では、本件ビューアは起動せず、ライセンスの発行を受けることも送信された影像の視聴もできないようにされていた。最小判令和3年3月1日・平30(あ)10(裁判所ウェブサイト)

技術的制限手段である暗号化は、本件ビューア以外での影像の視聴等を制限する手段です。ここでは、技術的制限手段が直接実現する暗号化・復号による視聴制限というような効果だけではなく、技術的制限手段が本件ビューアにて実現する「本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限する」という効果に着目し、キャプチャ禁止機能の効果もこれに含まれるとしているようです。

キャプチャ禁止機能は厳密には「影像の視聴等の制限」とはいえませんが、これが無効化されると間接的に「本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限する」という効果が無効化されてしまいます。よって、プログラムF3は、本件ビューアが技術的制限手段によって実現しようとする「影像の視聴等の制限」を無効化するものとして「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム」にあたるとしたのかもしれません。

しかし、本件ビューアにおいては、技術的制限手段(暗号化)のみでは「本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限する」という効果は実現できなかった、ということになります。これで技術的制限手段の効果を「本件ビューア以外で上記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限する」といってしまうのは無理があるかもしれません。

最高裁は、技術的制限手段の合理的に想定する効果が「影像の視聴等の制限」であり、キャプチャ禁止機能は厳密には「影像の視聴等の制限」とは異なりますが、これを無効化してしまうと間接的に「影像の視聴等の制限」という効果が減殺されてしまうため、キャプチャ禁止機能の無効化も「影像の視聴等の制限」を妨げるとしたのかもしれません。

確かに、暗号化は「影像の視聴等の制限」を企図していますが、Windowsの標準機能である画面キャプチャという、いとも簡単な方法によって効果が減殺されるようなものです。だからといって、画面キャプチャ禁止という機能までも保護の対象としていることが、条文から読み取れるのでしょうか。

要するに、技術的制限手段の効果、を判断基準にすることによって、技術的制限手段を2方式に限定したために生じる不具合、つまり法の欠缺を解釈によって補えるようにしているようにも思えます。信号を暗号化さえしていれば、影像の視聴等の制限を無効化するあらゆる抜け穴が塞がれる、ということなのかもしれません。