1.発明者が複数の場合の権利関係

人が新しい技術的思想を創作したとき、すなわち発明をしたときには、特許を受ける権利を取得します(特許法29条1項柱書)。

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特許法

第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

特許を受ける権利は基本的には発明をした人(自然人)に帰属しますが、会社の従業員等の発明の場合には、職務発明として、就業規則等であらかじめこれを会社に移転したり、会社に原始取得させることが可能です(35条2項、同3項)。

会社などの組織に帰属する人の場合には、チームで発明を完成させることがあります。また、企業とアカデミアとの共同研究のような場合には、そのチームを構成する人がそれぞれ違う組織に帰属していることもあります。

このような、複数の人が発明を完成させた場合には、権利の取扱いはどうなるでしょうか?

今回は、特許を受ける権利の共有について取り上げました。

2.共同発明の場合

複数の発明者がひとつの発明を完成させた場合には、原則として各自の発明者がその発明について特許を受ける権利を共有することになります。

なお、誰が共同発明者であるかの認定は難しく、また、特許庁は発明者が真正なものであるかどうかについての実体審査をしませんのでトラブルが絶えません。共同発明者の認定については、次の記事もご覧下さい。

特許を受ける権利は譲渡が可能です(33条1項)。発明者のチームが会社の従業員によって構成されているような場合には、各自が取得した特許を受ける権利が会社に譲渡されたり、会社がこれを原始取得しますので、会社が単独で特許出願をすることができます。

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特許法
第三十三条

特許を受ける権利は、移転することができる。
2 特許を受ける権利は、質権の目的とすることができない。
3 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。
4 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定し、又は他人に仮通常実施権を許諾することができない。

職務発明でないような場合や、複数の違う会社等に所属する従業員等がなした発明については、特許を受ける権利が各個人や会社によって共有され、共有者が共同で特許出願をすることになります。

特許を受ける権利の共有
特許を受ける権利の共有

3.特許を受ける権利の譲渡によって共有になる場合

特許を受ける権利は譲渡することができますので、単独発明であっても、その一部を譲渡することによって共有することができます。

例えば、研究機関がスポンサーから資金提供を受けて研究を遂行した結果、発明が生じることがあります。発明行為にスポンサーは関与していませんが、そのような発明について特許を受ける権利を研究機関とスポンサーが共有するような場合があります。

4.特許を受ける権利が共有された効果

特許を受ける権利が共有された場合、次のような効果が生じます。

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特許法
第三十三条

特許を受ける権利は、移転することができる。
2 特許を受ける権利は、質権の目的とすることができない。
3 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。
4 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、仮専用実施権を設定し、又は他人に仮通常実施権を許諾することができない。

4.1 特許出願は共同でしなくてはならない

特許を受ける権利が共有にかかる場合には、特許出願を共同で行う必要があります(38条)。

この規定に違反して、特許を受ける権利が共有されているにもかかわらず単独で出願をしてしまうと、特許出願を拒絶すべき査定を受ける理由(拒絶理由)となります(49条2項)。また、特許された場合でも無効理由となり(123条1項2号)、本来の共有者は、特許共有持分の移転請求をすることができます(74条1項)。

4.2 共有持分を勝手に譲渡できない

特許を受ける権利は譲渡することができます。これは共有持分であってもかわりません。

ところが、特許を受ける権利が共有されている場合、共有者が自分の持分を譲渡するには、他の共有者の同意を要します(33条3項)。これは、特許を共有する者が誰かによって、共有者の利益状況が大きく異なってくるからです。

例えば、企業AとアカデミアBの共同研究の成果として生じた発明が共同出願された場合に、アカデミアBがライバル企業Cに特許を受ける権利の持分を勝手に譲渡したら、企業Aとしては困りますよね。よって、このような場合は、アカデミアBが特許を受ける権利の共有持分を譲渡するには、他の持分権者である企業Aの同意を要します。

4.3 仮専用実施権や仮通常実施権を勝手に設定できない

特許が成立する前であっても、特許出願段階で仮通常実施権、仮専用実施権を設定することが可能です(34条の2,34条の3)。特許出願段階でこのような仮の実施権を設定しておけば、特許になった段階で実施権が設定されることになります。

しかし、特許を受ける権利が共有されている場合は、勝手に仮通常実施権、仮専用実施権を設定することはできず、他の共有者の同意を要します(33条4項)。このような制限も、共有持分の譲渡の場合と同様な理由によるものです。

5.特許権の共有

共有されている特許を受ける権利が特許された場合には、特許権も共有となります。

特許権が共有されている場合には、特許を受ける権利の場合と同様の理由で、共有持分の譲渡、質権設定や、実施権の設定には他の共有者の同意を要します(73条1項、3項)。

しかし、特許発明の実施は各共有者が自由にすることができます(73条2項)

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特許法

第七十三条 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
2 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
3 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

6.安易な共同出願にご用心

共同研究の場合、成果として生じた発明について特許を受ける権利を共有にすることがよくあります。

確かにそのような取り扱いにすれば公平ですし、共同研究をするぐらい関係が良好なうちは問題ありません。

しかし、特許発明を用いた事業を展開するフェーズになった場合、権利が共有ですと様々な制約が生じます。例えば、第三者に実施許諾をするにもいちいち相手方の同意が要りますので、製造委託をする場合に実施許諾を要しないような態様で行う必要が生じます。また、事業撤退時に特許の共有持分を売ってマネタイズすることもままなりません。

よって、特許共同出願契約書には、将来を見通して、共有持分の実施許諾、譲渡に関する取り決めをしておくのが望ましいです。どのような取り決めが望ましいかは共有者の力関係によっても異なりますし、企業か、個人か、アカデミアかといった共有者の立場によってもケースバイケースですので、ぜひ専門家にご相談ください。

笠原 基広