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社長
弊社は、直営の販売店が一目でわかるように、店舗のデザインを工夫しているんですよ。ところが、最近真似をする会社がでてきましてね。どうにかなりませんか?
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弁護士
店舗の外観は、著作権法、不正競争防止法などで保護されることがありますよ。
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社長
店舗の外観を真似すると不正競争にあたるんですか?
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弁護士
店舗外観がいわゆる周知性を獲得している場合に、これを不正競争防止法上の「商品等表示」として模倣店舗を差し止めた例があります。

店舗外観を保護する法律

チェーン店などは、一目で何のお店かわかるように、外観を統一していますよね。しかし、他の事業者が店舗の外観を真似した場合には、お客さんも、同じ事業者が営業していると誤解するかもしれません。

このように、店舗の外観に顧客誘因力が生じている場合、模倣を防ぐ法律はあるでしょうか?

まず、物品の外観を保護する法律としては、次のものが考えられます。

  1. 著作権法
  2. 意匠法
  3. 商標法
  4. 不正競争防止法

この記事では不正競争防止法による店舗外観保護の可能性について、考えてみます。

なお、著作権法による保護については次の記事をご覧下さい。

店舗外観と不正競争防止法

不正競争防止法は、他人の商品等表示として需要者に広く認識されているものを使用して営業主体の混同を生じさせる行為不正競争行為としています(不正競争防止法2条2号)

条文を見る
不正競争防止法
不正競争防止法 第2条
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
三(略)(e-Gov法令検索

よって、店舗外観が「他人の商品等表示」として「需要者に広く認識されている」場合に、これを模倣して「他人の営業と混同を生じさせる」場合には、不正競争となる可能性があります(周知商品等表示混同行為)。

周知商品等表示混同行為
  1. 他人の商品等表示として
  2. 需要者に広く認識されているものと
  3. 同一若しくは類似の商品等表示を使用等して
  4. 他人の営業と混同を生じさせる

行為は、不正競争行為として、差止め、損害賠償の対象となる可能性があります。

不正競争防止法上の商品等表示とは

不正競争防止法上の「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいいます(不正競争防止法2条1号)。

商品等表示とは
  • 人の業務にかかる
  • 氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの

この「人の業務にかかる」とは、その表示が、特定の者が業として提供する商品または営業に関する表示であればよいという意味です。

商品等表示とは、人の業務にかかる「氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装」であったり、その他の「商品又は営業を表示するもの」のことをいいます。すなわち、その表示・標章が、商品・サービス等の出所を示す表示であれば、不正競争防止法上の「商品等表示」であるといえます

また、不正競争防止法の条文では、商品等表示として、氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装が例示されていますが、そのほかにも商品の形態そのものが商品等表示とされた裁判例が多く存在します。

それでは、店舗の外観は商品等表示といえるでしょうか。

店舗の外観が「人の業務にかかる」ものであることには、異論がないと思います。それでは、店舗の外観は、人の業務にかかる「営業を表示するもの」といえるでしょうか。この点が問題となった事件を2つご紹介します。

めしや食堂事件(大地判平成19年7月3日)

この事件は、原告の店舗外観に類似する外観を被告が使用する行為が不正競争行為にあたるとして、差し止め等が請求された事件です。原告表示と被告表示との間に類似性が認められなかったため不正競争の成立は否定されましたが、裁判所は、「特徴的な店舗外観の長年にわたる使用等により、第二次的に店舗外観全体も特定の営業主体を識別する営業表示性を取得する場合もあり得ないではない」として、店舗外観も営業表示性を取得し得る余地を認めました。

裁判例
めしや食堂事件(大地判平成19年12月3日)

この事件は、飲食店を経営する原・被告間で、原告の店舗外観に類似する外観を被告が使用する行為が不正競争行為にあたるとして、差し止め等が請求された事件です。

店舗外観の営業表示性について、裁判所は、「店舗外観は、それ自体は営業主体を識別させるために選択されるものではないが、特徴的な店舗外観の長年にわたる使用等により、第二次的に店舗外観全体も特定の営業主体を識別する営業表示性を取得する場合もあり得ないではないとも解され、原告店舗外観全体もかかる営業表示性を取得し得る余地があること自体は否定することができない。」として、店舗外観が営業表示性を取得する場合があることを肯定しました。

そして、店舗外観の類否を検討するにあたっては、「仮に店舗外観全体について周知営業表示性が認められたとしても、これを前提に店舗外観全体の類否を検討するに当たっては、単に、店舗外観を全体として見た場合の漠然とした印象、雰囲気や、当該店舗外観に関するコンセプトに似ている点があるというだけでは足りず少なくとも需要者の目を惹く特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており、その結果、飲食店の利用者たる需要者において、当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきである。」としました。

本件で裁判所は、原告・被告の店舗外観について上記要素を比較して、両者の類似性を否定しました。

なお、この事件は大阪高裁に控訴されましたが、控訴審は店舗外観の営業表示性については深入りせず、原告・被告の店舗外観について類似性を否定することによって、控訴棄却としました(大高判平成19年12月4日)。

判決全文はこちら

コメダ珈琲店仮処分決定(東地決平成28年12月19日)

営業表示性の獲得

この事件は、フランチャイズチェーンの喫茶店を経営する事業者が、それと類似する外観の店舗を営業する他の事業者に対して、店舗外観の使用差し止めを求めた事件です。

裁判所は、次の2つの要件を充たす場合に、店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不競法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」に該当するとしました。

営業表示性獲得の要件
営業表示性獲得には、次の2つの要件の充足が必要とされました。

  1. 店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有していること
  2. 当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められること

その上で裁判所は、「切妻屋根の下に上から下までせり出した出窓レンガ壁が存在することを始めとする特徴(1)①ないし⑥の組合せから成る外装は、特徴的というにふさわしく、これに、半円アーチ状縁飾り付きパーティションを始めとする特徴(2)①ないし⑥を併有する店内構造及び内装を更に組み合わせると、ますます特徴的といえる」と複数の特徴的な部分を挙げ、「上記特徴を兼ね備えた外観は、客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有している」として、店舗外観が特徴的であり、識別力を有する旨認定しました。

外観に独占性を与えてよいか

さらに、このような店舗外観を営業表示として独占性を与えることについては、問題となった店舗外観の特徴が、機能的なものというより店舗イメージを具現するための装飾的な要素であること、需要者に広く認識されていたこと、複数の要素を兼ね備えて類似の幅が狭いこと、をもって、「これに類似するとして禁止されるのは、建築に当たっての必要性も低いのに殊更外観を模倣した場合に限られるものとみられる」として、「店舗外観の独占による弊害は極めて小さ」く、不正競争防止法の保護対象とするのが相当であるとしました。

一般的には、営業表示として店舗外観が備える特徴的部分の要素が多くなるほど、類似と判断できる範囲が狭くなります。例えば、本決定では、黒色スレート切妻屋根、煉瓦調タイル貼装飾、店舗名ロゴとその表示方法、出窓のレンガ壁、黒色の窓枠及び赤色の庇テントといった店舗外観の特徴が挙げられ、この組合せを兼ね備えるものが、営業表示として認められると判断されていますが、このような複数の特徴がたまたま一致することは考えられません。よって、裁判所が類似性が認められ、禁止されるのが「建築に当たっての必要性も低いのに殊更外観を模倣した場合に限られる」と述べているように、デッドコピーに準ずるような、意図的ともいえる店舗外観の模倣が不正競争とされる、と判断しているように思われます。

裁判例
コメダ珈琲店仮処分決定(東地決平成28年12月19日)

この事件は、フランチャイズチェーンの喫茶店を経営する事業者(債権者)が、それと類似する外観の店舗で営業する他の事業者(債務者)に、店舗外観の使用差し止めを求めた事件です。

裁判所は、「店舗の外観(店舗の外装、店内構造及び内装)は、通常それ自体は営業主体を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではないが、場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを一つの目的として選択されることがある上、①店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、②当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不競法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」に該当するというべき」として、店舗外観が商品等表示性を獲得するための2つの要件を提示しました。

そして、債権者の店舗外観について、「債権者表示1は、別紙「債権者表示1の主要な構成要素」記載(1)①ないし⑥及び(2)①ないし⑥のとおりの特徴が組み合わさることによって一つの店舗建物の外観としての一体性が観念でき、統一的な視覚的印象を形成しているということができるところ、これら多数の特徴が全て組み合わさった外観は、建築技術上の機能や効用のみから採用されたものとは到底いえず、むしろ、コメダ珈琲店の標準的な郊外型店舗の店舗イメージとして、来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して選択されたものといえる(前記1(3)ア(ウ))。そのようにして選択された、切妻屋根の下に上から下までせり出した出窓レンガ壁が存在することを始めとする特徴(1)①ないし⑥の組合せから成る外装は、特徴的というにふさわしく、これに、半円アーチ状縁飾り付きパーティションを始めとする特徴(2)①ないし⑥を併有する店内構造及び内装を更に組み合わせると、ますます特徴的といえるのであって、本件において提出された書証(甲123ないし125、乙12、30)等に見られる他の喫茶店の郊外型店舗の外観と対照しても、上記特徴を兼ね備えた外観は、客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しているということができる(他との十分な識別力を有しているということもできる…)。」として、店舗外観の複数の特徴を組み合わせることによって、顕著な特徴といえる旨認定しました。

さらに、「切妻屋根や出窓、レンガ壁等は通常用いられる建築方式にすぎない」から、独占性を与えるべきでないという債務者の主張については、

「本件において債権者が「商品等表示」に当たると主張する債権者表示1は、別紙債権者表示目録記載1(1)及び(2)の外装・店内構造・内装を全て兼ね備えて初めて営業表示とするというものに絞られている。債権者表示1は、単に建築技術上の機能や効用を発揮するための形態というよりは前記店舗イメージを具現するための装飾的な要素を多分に含んだ表示であり、かつ、前示のとおり需要者に広く認識されていたといえることに加えて、本件では上記のような限定が付され条件が幾重にも絞られていること(したがって、これに類似するとして禁止されるのは、建築に当たっての必要性も低いのに殊更外観を模倣した場合に限られるものとみられること)を考慮すると、殊に本件の債権者表示1については、店舗外観の独占による弊害は極めて小さいというべきであり、債権者表示1を(他の要件を満たす限り)不競法2条1項1号・2号による保護の対象とすることが相当でないということはできない。」

として、債権者の店舗外観の顕著な特徴が、機能的な要素というより、店舗イメージを具現するための装飾的な要素であること、複数の特徴を組み合わせてあること、需要者に広く認識されていたこと、をもって、店舗外観の独占による弊害は極めて小さく、不正競争防止法の営業表示として保護対象にできる旨、示しました。

決定全文はこちら。別紙目録に、写真がふんだんに使われており、興味深いです。

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社長
なるほど。店舗外観も不正競争防止法で保護されることがあるのですね。
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弁護士
それはそうですが、店舗外観が周知であることや、顕著な特徴を有していること、自他識別機能、出所表示機能を獲得していること、が必要ですから、かなりハードルは高いですね。
笠原 基広