知財FAQ

特許権、著作権、商標権、意匠権、不正競争-知的財産に関するよくある疑問を、弁護士が解消します

「電子書籍の“自炊”」について -自炊行為を代行する業者の責任

「電子書籍の“自炊”」について -自炊行為を代行する業者の責任
クリエータ
クリエータ
紙の書籍をスキャンして電子書籍化するのを、俗に”自炊”といいますよね。これは合法ですか?
弁護士
弁護士
“自炊”は私的複製として基本的には合法です。しかし、自炊代行業者のスキャン行為は違法とされました。
クリエータ
クリエータ
私的複製の要件は、①個人的・家庭内等における使用を目的とすること、②その使用する者が複製すること、ですよね。
弁護士
弁護士
最高裁は、②複製の主体は“自炊”代行業者であるし、しかも①営利目的なので、私的複製にあたらないとしています。

 “自炊”行為の適法性

電子書籍の普及

ここ10年程で、Kindleを筆頭に電子書籍リーダーが普及し、書籍を電子版で読むことができるようになりました。まるで本棚を持ち歩きながら読書ができるかのようで、とても便利ですよね。

電子ファイルで購入したものはダウンロードするだけで電子書籍として読めますが、紙媒体として持っているものは電子ファイル化しなければ読むことができません。そこで、自分で本を裁断し、スキャナーでスキャンして、電子ファイル化する必要があります。

このようなスキャン行為は、俗に“自炊”と呼ばれています。

まず、“自炊”行為の適法性について、ご説明します。

複製権侵害についての責任

著作者は複製権を有します(著作権法第21条)。「複製」とは、著作物を「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(同法2条1項15号)と定義されています。スキャン行為である“自炊”は、著作物の有形的再製行為ですので、客観的にみて「複製」に該当します

著作権法

著作権法第21条(複製権)

著作者は、その著作物を複製する権利を専有する

そして、複製権侵害については、民事上、差止め(第112条第1項)や損害賠償(民法第709条)の責任を負います。また、親告罪(著作権法第123条第1項)ですが、刑事上の罰則(第119条第1項)もあり、「10年以下の懲役」若しくは「1000万円以下の罰金」、またはこれらの併科という刑事責任を負うことになります。

私的複製としての適法性

もっとも、著作権侵害には、いくつか例外的に適法になる場合があります。

そのなかの1つとして、第30条第1項において、私的使用のための複製が規定されています。私的複製として適法になるための要件は、同項各号に掲げる場合に該当する場合を除いて、①個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とすること、②その使用する者が複製することです。

したがって、私的使用目的で自分が主体となって行う“自炊”行為は、私的複製として適法な行為であり、民事・刑事責任を負いません(第119条第1項かっこ書き)。

著作権法

著作権法第30条(私的複製)
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
二 技術的保護手段の回避(第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

(以下略)

著作権法第119条
著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(以下略)

“自炊”代行業者における複製行為の適法性

それでは、“自炊”代行業者がスキャン行為を行った場合にはどうなるのでしょうか?

“自炊”代行業者は、利用者からの注文に応じて、書籍をスキャンし、電子ファイル化するサービスを行っています。その利用者に私的使用目的が認められ(上記要件①)、“自炊”代行業者が利用者の補助ないし手足に過ぎないとすれば、複製の主体は実質的に利用者である(上記要件②)から、同サービスの内容であるスキャン行為は適法だと思えますよね。

しかし、「自炊代行事件」と呼ばれる民事裁判において裁判所は、“自炊”代行業者によるスキャン行為は違法であるとの判断を下しました。その理由は、複製の主体は“自炊”代行業者であるし、その目的は営利であるから、上記①②の要件を充足しないというものです。また、“自炊”代行業者が利用者の補助ないし手足であるとの論も、業務の実態を踏まえて、否定しています。結論として、“自炊”代行業者のスキャン行為は、私的複製としての適法性を備えず、原告による差止め等の民事上の請求が認められました。

しかも、別の事件ですが、2016年11月には、“自炊”代行業者について複製権侵害罪として、初の逮捕者がでています。

したがって、“自炊”代行業者によるスキャン行為は、一般的に、違法といえます。それまでグレーだと思われていた“自炊”代行業について、一定の決着がつきました。

なお、民事上の違法判決がでて、刑事上も逮捕者がでたことからか、現在、多くの“自炊”代行業者は、利用者において著作権者から複製について許諾を得ている書籍に関してのみ代行業務を発注するようHP上で注意喚起しています。そうすると、一般的には違法かもしれないが、(あくまでも建前としては)許諾ある適法な複製をしているとの立場で業務を継続しているのでしょう。

自炊代行事件(知財高判平成26年10月22日)

事案の概要

本件は、きわめて著名な小説家・漫画家らが原告となり、“自炊”代行業者を被告として訴えた事件です。被告は、顧客から電子ファイル化の依頼があった書籍を、著作権者の許諾なくして、スキャナーでスキャンして電子ファイル化し、納品していました。このスキャン行為について、原告は、著作権(複製権)侵害であるとして、その差止め等を請求しました。争点は、被告について、第30条第1項が適用されるか否かでした。

判示

裁判所は、まず、複製の主体について、被告は「独立した事業者として、営利を目的として本件サービスの内容を自ら決定し、スキャン複製に必要な機器及び事務所を準備・確保した上で、インターネットで宣伝広告を行うことにより不特定多数の一般顧客である利用者を誘引し、その管理・支配の下で、利用者から送付された書籍を裁断し、スキャナで読み込んで電子ファイルを作成することにより書籍を複製し、当該電子ファイルの検品を行って利用者に納品し、利用者から対価を得る本件サービスを行って」おり、「利用者と対等な契約主体であり、営利を目的とする独立した事業主体として、本件サービスにおける複製行為を行っているのであるから、本件サービスにおける複製行為の主体であると認めるのが相当である」として、利用者ではなく、“自炊”代行業者である被告が複製行為の主体であると判断しました。

次に、著作権法上の「複製」について、「著作物である書籍についての有形的再製が行われていることは明らかであるから、複製行為が存在するということができるのであって、有形的再製後の著作物及び複製物の個数によって「複製」の有無が左右されるものではない」として、複製物の数を増加させることは「複製」該当性とは無関係であり、被告がスキャン行為の後に裁断された書籍を廃棄していた事情があったとしても、「複製」行為は否定されないとしました。

続いて、補助者ないし手足論については、「一般に、ある行為の直接的な行為主体でない者であっても、その者が、当該行為の直接的な行為主体を「自己の手足として利用してその行為を行わせている」と評価し得る程度に、その行為を管理・支配しているという関係が認められる場合には、その直接的な行為主体でない者を当該行為の実質的な行為主体であると法的に評価し、当該行為についての責任を負担させることがあり得るということができる」と、その余地は認めたものの、利用者が複製作業に関与することは一切ないことから、そのように評価できる程度にその行為を管理・支配しているとはいえないとして、補助者ないし手足論の本件への適用を否定しました。

さらに、被告に第30条第1項が適用されるかについて、被告は「営利を目的として、顧客である不特定多数の利用者に複製物である電子ファイルを納品・提供するために複製を行っているのであるから、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ということはでき」ないし、被告が「複製行為の主体であるのに対し、複製された電子ファイルを私的使用する者は利用者であることから、「その使用する者が複製する」ということはでき」ないので、いずれの要件も欠くことから、被告に「同法30条1項を適用する余地はない」と判断しました。

最後に、第30条第1項の趣旨・目的を害するかどうかについて、被告の複製行為は「私的複製の過程に外部の者が介入することにほかならず、複製の量が増大し、私的複製の量を抑制するとの同条項の趣旨・目的が損なわれ、著作権者が実質的な不利益を被るおそれがある」ということも付け加えています。

以上より、書籍の有形的再製という複製行為の主体は代行業者である被告であり、その目的は営利であったことから、被告には第30条第1項を適用できず、違法な複製行為として著作権侵害があることを認めました。

利用者の責任は?

こうなってくると、そのような違法な行為を“自炊”代行業者に依頼した利用者の責任も問われるのではないか、疑問が湧きますよね?

この点について、民事についても刑事についても判断した先例がないようです。“自炊”代行業者のスキャン行為が違法であるとしても、自分自身で“自炊”すれば適法なのだから、利用者には違法性がないだろうと思われるかもしれません。しかし、自分自身で行うことは適法でも、違法な他人の行為に関与した場合には、こむずかしい理論上の説明は省きますが、民事上は共同不法行為として、刑事上もなんらかの共犯として、責任を負う可能性は否定できません。

ただ、民事の場合には被告として訴えられなければ基本的に問題ないです。一方で刑事では、被害者が親告罪として“自炊”代行業者のみを刑事告訴して、利用者を告訴しなくとも、刑事訴訟法第238条第1項において告訴は不可分であると規定されており、その告訴の効力は(利用者がなんらかの共犯になるとの理解を前提にすれば)利用者にも及び、利用者を起訴することはできます。

したがって、やはり著作権者の許諾がない限りは、“自炊”代行業者を利用することは控えるべきだといえるでしょう。立法的な解決がされていない以上は、紙媒体の書籍を電子ファイル化するには、“自炊”するほかありません(秘書など、補助者ないし手足といえる者に頼むのは大丈夫です)。さらに、適法に私的複製をしたものでも、私的使用目的以外の目的で頒布等した場合には複製権侵害とみなされますので、この点も要注意です(第49条第1項第1号)。

著作権法

著作権法第49条(複製物の目的外使用等)

次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。

一 第三十条第一項、第三十条の三、第三十一条第一項第一号若しくは第三項後段、第三十三条の二第一項若しくは第四項、第三十五条第一項、第三十七条第三項、第三十七条の二本文(同条第二号に係る場合にあつては、同号。次項第一号において同じ。)、第四十一条から第四十二条の三まで、第四十二条の四第二項、第四十四条第一項若しくは第二項、第四十七条の二又は第四十七条の六に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(次項第四号の複製物に該当するものを除く。)を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者

(以下略)

クリエータ
クリエータ
“自炊”はあくまでも私的複製の範囲に留めないとNGなのですね。
弁護士
弁護士
出版社の意向で電子書籍化されていない本は、自分でスキャンするしかないですね。
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