医療行為に特許を受けることができますか?医療行為の産業上利用可能性について

医療行為

医療行為発明の特許性

新型コロナウィルスによって、人々の生活に制約が生じています。

人の命を救うための医療行為については、特許を受けることができるでしょうか。

特許法は、特許を受けることのできる発明の要件特許要件)を定めています。

特許要件として主なものは、新規性進歩性産業上利用可能性先願性公序良俗に違反していないことです。また、特許は発明について与えられますので、発明であることが大前提となります。

なお、特許法には、医療関連発明を特許することができないという明文の規定はありません。

しかし、医療従事者が特許の有無を確認しないと医療行為を行えないとなると、適正・公平・迅速な治療の妨げとなってしまいます。

すなわち、特許の専門家ではない医師が、緊急性の高い患者に対し、救命の可能性が高くとも、特許を確認しないと治療や手術ができなかったり、特許権侵害のおそれを抱きつつ施術をすることを強いるのは、人道に反しているといえます。

よって、海外には医療方法を不特許事由としている国、地域があります。

日本でも、医療行為の発明は「産業上の利用可能性」がないとして、実務上、特許を受けることができません。

例えば、最近の裁判例では「2~20ガウスの微弱磁気を有する保健衛生用品を、傷口、又は化膿部に装着使用することを特徴とする、細胞再生方法。」を特許請求の範囲とする発明が、「本願発明が、実際に細胞を再生するものであるか否かはさておき、本願発明は、実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえる」ことから、「特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当しない」とされたものがあります(知高判平成21年1月21日・平成20(行ケ)10299)。

なお、従前は医療業は特許法上の「産業」に該当しないと解釈されていましたが、今日では医療行為(医療方法)には「産業上利用可能性」がないとされています。

特許を受けることができない医療行為

特許法には医療行為が特許されないとする規定はありませんが、特許審査基準に「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」は産業上の利用可能性がなく、特許とならない旨の記載があります。

すなわち、審査基準で特許性がないとされている医療行為は、次のようなものです。これらはいずれも、いわゆる「方法の発明」にあたります。

特許とならない医療行為
  1. 人間を手術する方法
  2. 人間を治療する方法
  3. 人間を診断する方法

特許を受けることが可能な医療行為関連発明

医療行為に関連する発明は、全て特許を受けることができないわけではありません。

上記に該当しないような医療行為関連発明、例えば、医療に関連する「物」の発明(医薬品、診断機械)や、医療行為に関連する「方法」の発明であっても医療機器の作動方法、人体から各種の資料を収集するための方法、人体から採取したもの(血液、尿、皮膚、髪の毛、細胞、組織)を処理する方法などは、「産業上の利用可能性」があり、特許を受けることができます。

特許審査基準の法規範性

特許審査基準は法律ではなく、行政機関たる特許庁の行動基準にすぎませんので、法規範性はありません。よって、国民や裁判所を拘束しません。

しかし、裁判所は解釈によって、医療行為は「産業上の利用可能性」を欠くため特許を受けることができないとしています。

医療行為発明に関する裁判例は多くありませんが、正面から医療行為の特許性について述べた裁判例をご紹介します。

医療行為の特許性に関する裁判例

本件は、「外科手術を再生可能に光学的に表示するための方法及び装置」とする発明について出願をした原告が拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判でも審判不成立の審決を受けたため、審決取消を求めた訴訟です。

審決の理由は次のとおりです。

本願発明は、「人間を診断する方法」に該当する、と認定し、この認定を前提に、人間を診断する方法は、通常、医師又は医師の指示を受けた者が人間を診断する方法であって、いわゆる「医療行為」であるから、特許法29条1項はしら書にいう「産業」に該当せず、したがって、本願発明は、「産業上利用することができる発明」に当たらない東高判平成14年4月11日・平成12(行ケ)65

裁判所は、医薬、医療機器に係る技術について特許性があるにもかかわらず、医療行為のみが不特許事由とされていることについて、疑問を呈し、医療行為にも特許性が認められるべきという原告の立場に理解を示しています。

現在における医療行為、特に先端医療は、医薬や医療機器に大きく頼っており、医療行為の選択は、たといそれ自体を不特許事由としたところで、医薬や医療機器に対する特許を通じて、事実上、特許によって支配されている、という側面があることは、否定し難いところである。このような状況の下で、医療行為のみを不特許事由としておくことにどれだけの意味があるのか、医療行為自体には特許を認めないでおいて医薬や医療機器にのみ特許を認めることになれば、医薬や医療機器への依存の度合いの強い医療行為を促進するだけではないのか、との疑問には、正当な要素があるというべきである。
これらのことを併せ考えると、医薬や医療機器に係る技術について特許性を認めるという選択をした以上、医薬や医療機器に係る技術のみならず、医療行為自体に係る技術についても「産業上利用することのできる発明」に該当するものとして特許性を認めるべきであり、法解釈上、これを除外すべき理由を見いだすことはできない、とする立場には、傾聴に値するものがあるということができる。東高判平成14年4月11日・平成12(行ケ)65

しかし、特許法には特に医療行為に関する手当がなく、医師が、医療行為について特許権を侵害するのではないかと恐れながら医療行為にあたらなければならないことになりかねず、そのような制度は著しく不当として、次のとおり、医療行為は「産業上利用することのできる発明」には該当しないとしました。

たとい、上記のとおり、一般的にいえば、「産業」の意味を狭く解さなければならない理由は本来的にはない、というべきであるとしても、特許法は、上記の理由で特許性の認められない医療行為に関する発明は、「産業上利用することができる発明」とはしないものとしている、と解する以外にないというべきである。
医療行為そのものについても特許性が認められるべきである、とする原告の主張は、立法論としては、傾聴すべきものを有しているものの、上記のとおり、特許性を認めるための前提として必要な措置を講じていない現行特許法の解釈としては、採用することができない東高判平成14年4月11日・平成12(行ケ)65

立法的解決が必要か

このように、現行法では特許法上には何の定めもありませんが、法解釈上、医療行為は特許となりません。

裁判所は、医師が医療行為を自由に実施できるような立法的解決がされない限り、医療行為発明の特許性を認めないようです。

医療行為を特許とした上で、医師の行う医療行為は特許権侵害とならないような定めを特許法におくべき、という意見もあり、立法論としては検討されているようです。